研究実績の概要 |
ヒトは2歳~3歳になると自然に走れるようになるが、その能力には大きな個人差がある。そのため走能力は生まれつきの素質によると広く考えられている。走るのが速い子は運動有能感を持ち、一方足が遅いことがスポーツ嫌いを生む要因ともなる。しかし、申請者らの最近の研究によれば子どもの疾走能力はランニングフォーム(技術)と強く関係する(信岡ら、体力科学、2015)。また昨今はランニングブーム(この場合長距離)だが、多くの人は知らず知らずに悪いフォームで走るために膝・腰などの障害に悩み、走る意欲も失ってしまう。本研究の目的は「正しいランニングフォーム」の重要性を検証、それを身につける方法を確立して「走能力は生まれつきの素質による」というドグマを打ち破る。過去3年間にわたって幼児、幼稚園生、小学生を被験者に走速度V、単位時間あたりの歩数(ケイデンス, C)、一歩の長さ(ストライド長, S)の間の関係(以下V-C-S特性)が年齢とともにどのように変化するかを測定した。その結果、幼児ではそもそも大きな範囲で速度調節はできないが、その小さな範囲ではストライドはほとんど変化せず、ケイデンスの変化で速度変化が起こっていた。一方、小学校高学年では成人で見られる遅い速度域ではストライドの変化、速い速度域ではケイデンスの変化によって速度調節が実現されていた。そのような成人型の速度調節への移行は6歳から10歳ごろに起こるようである。さらに小学校高学年では体は成長しているのにV-C-S特性が成人型になっていない子もみられた。成人型のV-C-S特性は運動の効率が良いと考えられており、その特性は幼児期における走運動の繰り返しの間に獲得するのであろう。それを獲得できない子は環境のためか、走る経験が足りなかったためと予想される。幼児にはある程度走る経験を積ませることが重要であると思われる。
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