研究課題/領域番号 |
19K22824
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研究機関 | 松本大学 |
研究代表者 |
河野 史倫 松本大学, 大学院 健康科学研究科, 准教授 (90346156)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | 骨格筋 / 運動 / ヒストンターンオーバー / 遺伝子転写 |
研究実績の概要 |
運動がヒストンターンオーバー(=ヌクレオソームからヒストンを除去し、再取り込みすることで再びヌクレオソームを形成すること)を促進するのか、直接測定し実証することを目的として研究を実施している。ドキシサイクリン投与によりヒストン2B(H2B)とGFPの融合タンパク質を発現する遺伝子組み換えマウス(H2B-GFPマウス)を運動群と非運動群に分け、運動群には1日30分間のトレッドミル走運動を4週間実施した。運動開始時点から両群ともドキシサイクリン投与を開始した。1、2、4週目に前脛骨筋サンプリングを行った。ヒストンターンオーバーの測定は、クロマチン免疫沈降法を用いて行った。前脛骨筋から単離した筋線維を集め、クロマチン抽出した後、GFP抗体を使ってクロマチン免疫沈降を行った。同一種のマウスにおいて運動により発現増加する遺伝子(20種類)と発現応答しない遺伝子(20種類)をRNAシーケンシングによって選定し、解析対象とした。運動群の発現増加する遺伝子群においては、1週目に比べ2週目でGFPの取り込み量が増加し、4週目ではさらに増加した。4週目においては非運動群に比べても有意に増加した。興味深いことに、同様のGFP取り込みは運動に対して発現応答しない遺伝子群においても認められた。さらに、運動トレーニングによって起こるミトコンドリア代謝亢進を遺伝的(運動せずに)に引き起こすことができる骨格筋特異的PGC-1α-b過剰発現マウスを用いてGFPの取り込みを評価した。その結果、このマウスでは4週間ドキシサイクリン投与してもGFPの取り込みに野生型マウスとの差は見られなかった。以上の結果から、運動によってヒストンターンオーバーが促進することが実証できた。このような現象は、運動による代謝の亢進には起因しないことも明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の目的は、運動によって骨格筋でヒストンターンオーバーが促進することを実証することである。2019年度の研究成果からヒストンターンオーバーの測定に成功し、運動によって促進するというクリヤーなデータを得ることができた。さらに、ヒストンターンオーバーの原因についても追求し、ミトコンドリア代謝が亢進しただけではヒストンターンオーバーは促進しないことも分かった。ここまでの成果で研究期間全体の目標の80%程度は達成できたと評価することができる。したがって、「当初の計画以上に進展している」と判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
ヒストンターンオーバーは、ヌクレオソームを形成するヒストンを置き換えることで遺伝子の転写応答性を変化させる仕組みであると考えている。2019年度の研究でヒストンターンオーバー自体が運動で促進することはすでに証明できたが、ヒストンターンオーバーが仮説通りの生物学的意義を有するのかは未解明である。したがって、2020年度はヒストンターンオーバーが起こっている場合とそうでない場合で、運動に対する遺伝子応答性にどのような違いがあるのかを明らかにする実験を実施する。2019年度に実施した実験モデルでは、ヒストンターンオーバーは運動2週間では促進していなかったものの、4週間では非運動群に比べ顕著に促進した。ヒストンターンオーバーが運動に対する骨格筋の適応変化に寄与する仕組みであるならば、運動2週目と4週目では運動応答性が変化しているはずである。この点に焦点を絞って、運動誘発性ヒストンターンオーバーの全容を解明したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次期研究として、2週間ならびに4週間の運動トレーニング実験にすでに着手している。この実験で得られた筋サンプルを使って組織化学解析を予定しているが、実験終了およびサンプリングが年度内には間に合わなかったため、抗体購入に要する予算を次年度に繰り越した。
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