研究実績の概要 |
超高齢社会にある我が国において、身体諸機能の退行性変化を抑制して、健康寿命を延伸することが求められている。健康寿命の延伸には、運動器である骨格筋量と機能の維持が必須である。一般に、筋力は筋量に比例することから、骨格筋量を維持・増量が重要となる。最近、臓器・組織間の連関・相互作用「臓器間ネットワーク」による生体諸機能の調節機構の存在が明らかになった。骨格筋細胞では、骨格筋とは無関係であると考えられてきた食事により分泌が誘発される消化管ホルモンの受容体の発現が確認された。しかし、骨格筋細胞における消化管ホルモンその生理学的意義は不明である。そこで本研究では、骨格筋量を調節する臓器間ネットワークにおける消化管ホルモン「胃抑制性ポリペプチド(GIP)」の役割を解明し、経口の食事の新たな生理学的意義を提示することを目的として、2年計画で実施した。培養細胞実験では、C2C12細胞を用いて、培筋細胞の増殖および筋管形成、筋管細胞の肥大(成長)に及ぼすGIPの影響を難分解性のGIPであるD-Ala2GIP(Mouse,1-42)を用いて検討した。その結果、D-Ala2 GIP(Mouse,1-42)投与により筋管形成および筋管細胞の肥大の促進作用が濃度依存性に認められた。動物実験では、マウス(C57BL/6J、雄性)を用いて、筋肥大モデルを作成し、D-Ala2GIP(Mouse,1-42)投与による筋肥大の増強の有無を検討した結果、足底筋では肥大促進作用を認めたが、ヒラメ筋では認めなかった。さらに、廃用性筋萎縮に対するD-Ala2GIP(Mouse,1-42)投与したところ、筋萎縮および速筋化が抑制される傾向が認められた。したがって、骨格筋に対するGIPの作用は筋線維タイプ特異的であることが示唆された。GIP内分泌を促す経口の食事は、骨格筋増量すなわち骨格筋機能を亢進することが示唆された。
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