研究課題/領域番号 |
19K22829
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研究機関 | 龍谷大学 |
研究代表者 |
田原 大輔 龍谷大学, 先端理工学部, 准教授 (20447907)
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研究分担者 |
二宮 早苗 大阪医科大学, 看護学部, 講師 (70582146)
岡山 久代 筑波大学, 医学医療系, 教授 (90335050)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | バイオメカニクス / 腹圧性尿失禁 / サポート下着 / 有限要素法 / 軟組織 / 材料特性計測 / 最適設計 / MRI |
研究実績の概要 |
本研究では,女性の腹圧性尿失禁の改善用サポート下着における経験と勘が支配的な開発に代わり,生体モデルによる実験と計算力学シミュレーションに基づく骨盤および,その周囲軟組織の力学的挙動の評価方法を確立し,生体力学的な観点から下着の最適設計戦略を提示することを目的としている.令和二年度の研究実績は,以下の3点にまとめられる. 1. 先行研究で構築した日本人女性被験者の臀部のMRIイメージベース有限要素(FE)モデルを基に,サポート下着の生地の局所的な収縮や,剛性の大きさ・異方性により,膀胱をより高く挙上可能な具体的な下着製作方法の検討を行うためのモデルの確立を狙い,臀部FEモデルの表面に薄いシェル要素を付与し,線膨張係数を定義した上で温度変化の付与によるシェル要素の収縮挙動を表現するモデリング方法を提案した.また,線膨張係数や温度変化の幅を変化させ,サポート下着のような収縮挙動が得られるパラメータの組み合わせを探索した. 2. 生体類似特性を持つ臀部ダミーモデルの製作手法の検討として,3次元スキャナを導入し,人体形状の取得への適用可能性を検討した.また,ポリビニルアルコール(PVA)とシリコンを主成分とした剛性の異なる材料試験片に対する押し込み試験を継続し,被験者の臀部の軟組織に類似する剛性を有する材料成分を探索した. 3. 繊維の特徴的な編み方,生地の特性から高い膀胱挙上量を達成するサポート下着の試作が可能な技術を持つ下着メーカーの探索と試作の可能性を継続し,技術の適用について集中的に議論を行った. 4. 膀胱挙上量のより簡便な評価方法の探索として,エコーによる腹部計測の適用可能性について集中的に議論を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1. まず,臀部FEモデルの表面に,厚さ1 mmのシェル要素を配置し,サポート下着の着用を想定したモデルを作成した.次に,下着の局所領域に線膨張係数を設定し,温度変化を与えることで,熱膨張(収縮)による下着の収縮挙動を表現することに成功した.陰後部から尾骨付近の領域に局所的な収縮の発生を狙った解析では,下着自体の収縮に伴い,膀胱の挙上を捉えることができた.一方,本モデルの熱解析の計算コストが高いことが判明した上,線膨張係数,温度変化の範囲,着圧分布,臀部の拘束条件等のパラメータが敏感にモデル挙動に影響を与えることもわかった.これらの不適切な組み合わせでは,モデルの収縮挙動が非現実的に大きくなり過ぎることもわかったため,実際の下着繊維の収縮量と対応させたパラメータの探索が重要であることが示唆された. 2. 臀部ダミーモデル製作手法の検討に用いる3次元スキャナの形状再現性評価のため,人体形状の取得の前に,簡易形状に対する予備検討を試みた.一方,コロナ禍による研究実施場所(大学)への入構制限の影響を受け,実機による検討計画の見通しを十分に立てることが難しくなったため,令和二年度は本検討を積極的に行わず,前述の計算による評価に注力することとした.また,ポリビニルアルコール(PVA)とシリコンを主成分とした剛性の異なる材料試験片に対する押し込み試験も,実機による検討のために実施が難航したが,試験用のサンプル作製は,協力メーカーにより準備を進めることができた. 3. 特徴的な繊維の編み方,生地特性技術を有するメーカーと令和元年度からの継続議論とともに,新たなメーカーへの試作協力の可能性を探った.多くの時間をかけた有意義な議論を行えたが,コロナ禍でメーカーの協力体制が十分に見通せなくなった点が大きく,下着試作の実現が容易でない状況であることが判明した.
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今後の研究の推進方策 |
1. 臀部FEモデルへの下着の局所的な収縮挙動を表現するパラメータ(線膨張係数,温度変化の範囲,着圧分布,臀部の拘束条件等)の組み合わせと,モデルの軟組織および,膀胱挙上量に与える影響を明らかにする.この検討をふまえ,高い膀胱挙上量を実現可能な繊維の編み方・生地剛性の異方性の組み合わせを明らかにし,サポート下着の詳細設計戦略を提示する. 2. 臀部ダミーモデルの製作のため,臀部FEモデルの外形状の型枠を3Dプリンタにより製作し,予備検討中のPVA・シリコンを含む生体模擬材料を用いて,計算モデルと同じ形状・剛性を持つ骨盤,膀胱の実モデルをそれぞれ製作する.型枠内の空間にそれらの骨盤,膀胱の実モデルを挿入した状態で,軟組織に相当する剛性を持つ生体模擬材料で固定して完成させる.また,ダミーモデルの力学的挙動の妥当性評価のため,モデルへの下着着用・非着用時の膀胱の変位位置を計測し,過去のその被験者の下着着用時の膀胱の挙動位置と比較する.ダミーモデル表面の着圧センサーから得られる着圧分布の比較も同様に行い,妥当性を評価する. 3. 3Dスキャナで取得した新たな対象被験者の臀部外形状を型枠としてダミーモデルを作製し,下着着用時の着圧分布を測定する.また,下着着用時の軟組織部分の挙動変化に対し,エコー計測を適用し,その可能性と限界を明らかにする.先行研究で得られた実際の被験者を対象とした下着の着圧分布の直接的な測定結果と比較し,その傾向との対応を比較することで,ダミーモデルによる評価の有用性を見極める. 4. 研究最終年度の研究総括として,以上の計算による検討結果を基に,サポート下着の最適設計戦略を明示するとともに,実試験に代わるダミーモデルの可能性について整理し,まとめる.
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次年度使用額が生じた理由 |
膀胱挙上量が高いサポート下着の設計戦略の抽出途中段階と平行し,メーカー協力による下着試作の開始を目指していたが,メーカーとの技術融合の議論に時間を要した上,コロナ禍による研究実施制限および,計算による研究への注力への変更等の影響を受けた.このため,臀部ダミーモデルの試作・製作とその評価に関する研究項目に遅れが生じ,試作・製作の必要物品の導入を遅らせた.当初計画している物品導入等を基本とするが,新たに令和二年度中の研究で明らかになった計算コストを見極め,計算機の増強を視野に入れ,最終年度の研究を完了することを目指す.
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