研究課題
腸内フローラを介した運動パフォーマンスへの影響について検討し、タレント発掘やアスリートの健康管理のためのモニタリング、健康づくりへの運動効果の新規視点の発見、さらには細菌サプリメントの開発などへの広がりを期待して取り組んでいる。本研究では、アスリートマウスを作成し、腸内細菌叢解析を駆使しつつ、便移植法による運動パフォーマンス水平伝播の可能性について検討を試みる。さらにヒトアスリートの糞便を用いた、ヒト腸内フローラ移植マウスへの運動パフォーマンス生物界間伝播の可能性についても検討を予定している。本年度は、TLR5遺伝子欠損マウス(KO5)を用いてアスリートマウスを作成し、さらにその糞便ならびに盲腸便に含まれる腸内フローラ移植による、運動パフォーマンスの水平伝播の可能性について検討する予定であった。2施設の動物実験委員会の審査、および実験施設での組換えDNA実験安全委員会の審査は終了し承認は得られたが、時間的制限で本実験の実施には、至っていない。そこで、類似の内容で実施したプレリミナルな実験サンプルを用いて腸内細菌叢の詳細な解析を実施した。その結果、自発運動10週目以降、KO5の自発運動量は野生型(WT)マウスと比較して有意に高い値を示した。20週間後の腸内細菌叢のベータ多様性は、寄与率47%で遺伝的影響が示された。さらに、0、 4、 10、20週目ごとのWT、およびKO5マウスの自発運動の有無による属レベルでの腸内細菌叢を比較した結果、顕著な変化が見られたのは、Firmicutes門ではClastridialesとTuricibacter、Lactobacillusが抽出され、 Bacteroidetes門では、s24-7とBacteroidesが示された。マウスの腸内細菌叢形成パターンから、運動パフォーマンスと関連する可能性のある腸内細菌の候補が複数示された。
4: 遅れている
他施設での動物実験を予定していたため、内規上、複数の動物実験委員会での倫理審査、さらにはノックアウトマウスを使用するための組換えDNA実験安全委員会審査に結構な時間を費やしてしまった。同時に、ノックアウトマウスについて胚を購入し、繁殖を行う作業を導入した関係で、予想以上に実験準備に時間を要する結果となってしまっている。これまで得られているサンプルを用いて、解析を行うなどの手段で、今のところ対応しているが、本格的な研究は、今後という状況である。COVID-19感染拡大を受け、非常事態宣言下では、動物実験も予断を許さない状況が続いている点も懸念材料である。
COVID-19の収束を待って、動物実験と並行してヒトを対象とした実験へと進める予定である。具体的には、まずヒトアスリートからの糞便回収と、その腸内フローラ解析を実施する。しかし現状、見通しは明るくない。新型コロナウイルスが糞便からも検出されたとの報告も出されており、腸内細菌叢の解析とともに、新型コロナウイルスのPCR解析も必要と考えられる。そのこと自体、技術的には何も問題はないが、険者の安全確保、および被験者への一段の倫理的配慮が必要となるなどの課題がある。動物を用いた実験系をさらに充実させることで、ひとまずは一定の成果が得られないかついても、同時進行で現状を見ながら検討に入っている。
倫理申請の関係で、ノックアウトマウスの胚の購入が年度末となってしまったため、その後の飼育等にかかる経費の執行が次年度へもちこされることとなった。したがって、次年度は、購入した胚から作成した動物を用いての飼育、ならびに実験が開始できる状況が整いしだい、繰り越した経費を執行する形で、本研究課題に関する実験を進める。今後は、さらに、ヒト化腸内フローラマウスの作成をする上で動物の飼育と動物からの試料摘出時の実験補助経費が必要となってくるので、人件費の執行を予定している。同時に、腸内細菌解析は次世代シーケンス法を用いたメタゲノム解析を予定しているが、こちらは予定通り、委託分析として経費の執行を予定している。また、実験動物の分析に必要となる試薬等の消耗品も、適切に購入し、実験を進めていく。加えて、作成した遺伝子操作マウスのラボ単位で維持に必要となる経費、さらには、研究成果の報告のための関連研究分野の国内外学会参加経費の執行も予定している。
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