100Hz程度での手のひらへの振動刺激は手の痙縮(手の筋肉のこわばり)を軽減できるという臨床的知見がある。このとき、神経系でどのような変化が起こっているのかについて、筋電図を計測して考察した。7名の片麻痺患者と22名の健常若年成人を対象に、手のひらに111Hzの振動刺激を与えると、すべての被験者が、手指を握る方向への感覚と手指を伸ばす方向への感覚の両者を体験することがわかった。この時の筋電図を解析すると、手の浅指屈筋および総指伸筋の両方から筋活動が計測できた。これらの結果から、手のひらへの振動刺激は、脊髄の反射回路のみならず、運動野などの大脳皮質を経由したlong-loop反射回路も活性化していることがわかった。特に総指伸筋の活動は手指を握りこむ痙縮を軽減する方向への作用であり、このような効果が痙縮軽減効果に関わっている可能性が示唆された。この成果はBrain Injuryに掲載された。この研究ではさらに、振動刺激中に手をみていることによって、筋活動が影響を受けることを明らかにした。そこで、手の動きの視覚映像を見ながら、手のひらに振動刺激を同時に受ける視覚-体性感覚痙縮軽減装置を開発し、経頭蓋磁気刺激を使って、このときの皮質脊髄路の興奮性の変化を健常若年被験者11名で検証した。手のひらに振動刺激を受けながら、同時に手の動きの視覚映像を観察すると、皮質脊髄路の興奮性が上昇することがわかった。この興奮性はさらに脳内で手の動きをさらにイメージすることで増大されることもわかった。これらの結果は、手のひらへの振動刺激の効果は、視覚映像や運動イメージなどの付加によってさらに増強されることを意味した。この結果は、Journal of Behavioral and Brain Scienceに掲載された。
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