ヒトにおける摂食・エネルギー代謝調節は、多くの生理活性ペプチドによって複雑かつ精巧に制御されている。これまで申請者の研究室では、グレリンの発見やニューロメジンU(NMU)、ニューロメジンS(NMS)の同定に成功している。グレリンは強力な摂食亢進作用を有することが明らかとなり、NMUとNMSは摂食抑制物質であり、エネルギー消費の亢進をもたらす異化シグナルとして機能する。これらのペプチドだけでなく、摂食・エネルギー代謝を制御する因子の受容体の多くはGタンパク質共役型受容体(GPCR)である。近年、腸内細菌叢のバランス異常と肥満や糖尿病の病態形成の相関が明らかにされているが、細菌由来ペプチド性因子による直接的な関与は報告されていない。本研究では、腸内細菌叢より産生される新たなペプチド性因子を同定し、細胞や個体レベルでの機能解析を行い、新しいエネルギー代謝調節機構を解明することを目的とした。 消化器系に発現し、摂食やエネルギー代謝に関わることが既に知られている生理活性ペプチドの受容体(GPCR-Y)発現細胞において、細胞内Ca上昇活性を指標に、ラット腸内要物より2種類の新規ペプチド性因子の同定に成功した。合成した新規ペプチドをGPCR-Y発現細胞に作用させた結果、いずれも容量依存的な細胞内Ca上昇活性を示した。本活性はGPCR-Y特異的アンタゴニストにより競合的阻害を受けたため、同定した新規ペプチドは既知のリガンドと同じ結合ポケットに作用することが明らかとなった。
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