近年、超特異楕円曲線間の同種写像の列を利用した同種写像暗号は、量子計算機による暗号解読でも耐性のある耐量子計算機暗号技術(Post-Quantum Cryptography)の1つとして期待されている。同種写像暗号の本質的な安全性は、2つの同種な楕円曲線を結ぶ同種写像の列を具体的に計算する「同種写像問題」の計算量困難性に依存する。一方、楕円曲線の理論において、有限体上の超特異楕円曲線の全体集合と四元数環における極大整環の全体集合が1対1に対応するDeuring対応が知られている。研究成果として、超特異楕円曲線のDeuring対応下における四元数環上の同種写像問題を効率的に解くKohel-Lauter-Petit-Tignol(KLPT)アルゴリズムを改良すると共に、超特異楕円曲線のねじれ点の高速探索法を利用して、与えられたイデアルにDeuring対応する超特異楕円曲線を求める構成的Deuring対応計算の高速化に成功した。(近年、構成的Deuring対応計算は、超特異楕円曲線間の同種写像列を利用した署名方式など暗号構成において利用されている。)また、超特異楕円曲線において、同種写像問題と自己準同型環の計算問題は相互に帰着可能であることが知られている。全体の研究成果として、まず同種写像問題を解くための代数的アプローチを開発した。次に、超特異楕円曲線におけるDeuring計算の高速化と自己準同型環の計算アルゴリズムを整備すると共に、実際の計算機上での動作確認を行うことに成功した。これらの研究成果は、国内会議で発表すると共に、多数の査読付きの国際会議・国際雑誌にも採択された。
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