研究課題/領域番号 |
19K22858
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
宇津呂 武仁 筑波大学, システム情報系, 教授 (90263433)
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研究分担者 |
乾 孝司 筑波大学, システム情報系, 准教授 (60397031)
齋藤 有 聖徳大学, 児童学部, 講師 (60732352)
石川 由美子 宇都宮大学, 教育学部, 准教授 (80282367)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | 絵本 / 発達心理学 / 読み聞かせ / 発達順序 |
研究実績の概要 |
本研究では,発達心理学の課題に情報学手法で取り組む「情報発達心理学」を創成する.そして,(a) 質問紙調査結果の分析,および,新しい情報源である大規模絵本レビューを自然言語処理する情報学手法の適用により,「絵本を媒介とする発達」事例を収集する.さらに,(b)収集した事例を順序性分析する手法の適用により,「絵本を媒介とする発達」に関わる知見をマイニングする.このマイニングにおいては,「絵本を媒介とする発達」スキルセットの体系的構築を目的とする. 2020年度は,2019年度に行った,大規模絵本レビューを情報源とするマイニング結果をふまえて,質問紙調査による事例収集および順序性分析を行った.この分析の前提として,発達心理学では,子どもの発達は順序性を示すとされている.その成果の一つとして,[石川1996]の順序性分析の結果においては,絵本の読み聞かせに関連する子どもの反応と,日常生活における子どもの反応との間には順序性があることが示されている.この順序性の解明は,子どもの発達メカニズムの解明において大きな意義を持つと言える.そこで,2020年の分析においては,[石川1996]における発達順序性との対比を行うために,[石川1996]の調査において用いられたものと同一の質問項目を用いることにより,2020年時点における新規の質問紙調査を実施し,1996年と2020年との間で順序性の比較分析を行った.その結果,絵本に対する興味に関連する子どもの発達は,日常生活における絵本以外に関連する子どもの発達に比べて早まる傾向にあることが分かった.一方で,絵本に関する発達のうち,子どもの発話を必要とする発達については,極端に早まるという傾向は見られなかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は,2019年度に行った,大規模絵本レビューを情報源とするマイニング結果をふまえて,質問紙調査による事例収集および順序性分析を行った. この分析の前提として,[石川1996]の順序性分析の結果においては,絵本の読み聞かせに関連する子どもの反応と,日常生活における子どもの反応との間には順序性があることが示されている.例えば,「ペ一ジをとばしても平気で見ている」子どもが,「ぺ一ジをめくることができとばすと気付いてもどる」ようになるまでには,「物語や文がほとんどなく日常の具体的なものが載っている絵本を好む」,「繰り返しのある絵と文で構成される絵本を好む」といった段階を経るとされている.そこで,2020年の分析においては,[石川1996]における発達順序性との対比を行うために,[石川1996]の調査において用いられたものと同一の質問項目を用いることにより,2020年時点における新規の質問紙調査を実施し,1996年と2020年との間で順序性の比較分析を行った.その結果,絵本に対する興味に関連する子どもの発達は,日常生活における絵本以外に関連する子どもの発達に比べて早まる傾向にあることが分かった.一方で,絵本に関する発達のうち,子どもの発話を必要とする発達については,極端に早まるという傾向は見られなかった.また,特に,絵本の特徴を分析した結果においては,1997年以降に出版されたものが多い一方,1996年以前に出版された絵本の割合は少なく,しかも,それらの絵本の大半は,ブックスタートにおいて紹介・配布されるか,絵本ナビのレビュー順位100位以内に入る,知名度の高い絵本であった.逆に,1997年以降に出版された絵本においては,上記のいずれでもないその他の絵本が多くを占めていた.
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は,2020年度の分析結果と,他の発達検査をふまえた分析結果との間の関連性の分析に重点を置く.その結果をふまえて,質問紙調査結果の収集と分析を行い,「絵本を媒介とする発達」事例を収集する.さらに,収集した事例を順序性分析する手法の適用により,「絵本を媒介とする発達」に関わる知見をマイニングする. 2020年度の分析においては,[石川1996]における発達順序性との対比を行うために,[石川1996]の調査において用いられたものと同一の質問項目を用いることにより,2020年時点における新規の質問紙調査を実施し,1996年と2020年との間で順序性の比較分析を行った.その結果,一部において,[石川1996]における分析結果とは異なる傾向が見られることが判明した.具体的には,絵本に対する興味に関連する子どもの発達は,日常生活における絵本以外に関連する子どもの発達に比べて早まる傾向にあることが分かった.また,[石川1996]では行われなかった分析として,特に,発達項目ごとの絵本の特徴の分析を行った.ここで,[石川1996]の調査において用いられた質問項目と,他の発達検査における質問項目を比較すると,重複する項目が存在する一方で,[石川1996]の質問項目を補足する位置付けとなる質問項目も多く存在する.そこで,2021年度は,2020年度の質問紙調査で得られた順序性分析結果を補強することを目的として,他の発達検査における質問項目と[石川1996]の質問項目を統合した質問項目を作成した後,質問紙調査結果の収集と分析を行い,「絵本を媒介とする発達」事例を収集する.さらに,収集した事例を順序性分析する手法の適用により,「絵本を媒介とする発達」に関わる知見をマイニングする.
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度において質問紙調査の経費を計上していたが,追加質問紙調査を行うことが必要となった一方で,予算的には2020年度の残額では不足する額の調査となった.そこで,2020年度の残額は2021年度予算と合算して,2021年度に追加質問紙調査を行うことにより,2021年度の研究成果を充実させる.
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