研究課題/領域番号 |
19K22866
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
阪口 豊 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (40205737)
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研究分担者 |
諏訪 正樹 慶應義塾大学, 環境情報学部(藤沢), 教授 (50329661)
西井 淳 山口大学, 大学院創成科学研究科, 教授 (00242040)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | 仮想的知覚 / 意識 / 注意 / 計算モデル |
研究実績の概要 |
本研究では, 「意識の働き」が「無意識下の働き」を介して身体運動を変容させる脳内計算メカニズムを探究することを目的として,「仮想的身体知覚を介した教示」と名付けた技能指導に着目し,その効果を調べる行動実験とメカニズムを説明する計算モデル構築を中心とした研究を行う.今年度の成果は以下のとおりである. まず行動実験については,昨年度一定の成果が得られた上肢運動を対象とした検討について補足実験を行ったうえで成果を公表する計画であったが,新型コロナ感染症の影響で系統的な行動実験ができず,確定的結論を得るには至らなかった.この検討とは別に,タッピング課題を題材とした実験において,身体に注意を向ける内的焦点条件とタッピング時の音に注意を向ける外的焦点条件のあいだで,タッピング中の動きの振幅が有意に異なることが新たに明らかになった.このような違いが生じる機序や機能的意味は不明であるが,意識に上らない運動生成過程を変容させる例としてさらに検討中である. 計算モデルについては,昨年度に利用を断念したOpenSIMに代わるものとして人工知能研究の広く用いられる動力学シミュレータを調査し,試験的にモデル構築とシミュレーションを開始した. 最後に,身体運動は,身体各器官からの信号をもとにしたボトムアップな身体感覚処理と脳の記憶領域に格納された身体イメージによるトップダウン予測のせめぎあいのなかで生まれるといえるが,実践を通じてこのプロセスを検討する取組みとして,アスリートが体感をことばで表現しながら身体スキルを獲得すること,公園での居心地の体感をことばで表現しながら居心地を開拓することを行った.以上の取組みを通じて,体感をことばで表現する認知的行為(つまり、仮想的身体知覚を抱くこと)は環境を知覚するためのトップダウン予測の働き方を変えることであるという仮説を立てた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
行動実験については,今年度は,新型コロナウィルス感染症対策のため,ヒトを対象とする実験がほとんど遂行できなかったほか,大学全体の業務としてウィルス感染症対策に多くの時間を費やし,研究の進捗は大幅に遅れている.昨年度に成果が得られた実験結果についても補充実験が十分に行えず,論文執筆が滞っている. 計算モデルについては,昨年度,筋骨格シミュレータを用いた解析に限界があることが判明したため,今年度は新しいシミュレーションの環境でのモデル構築に着手したが,確定的な段階まで進んでいない.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,新型コロナ感染症の収束を見込みつつ,感染症対策をとったうえで,行動実験を再開する.また,遅延している上肢運動に関する研究成果の論文公表を進める.これに加え,仮想的知覚による指示はさまざまな身体技能の場面で行われることから,当初計画に含まれていなかった新しい課題の下で仮想的知覚に基づく指示の効果を調べる予定である. 計算モデルについては,仮想的身体知覚や注意の働きが多自由度をもつ身体構造でこそ生じることをふまえて,上腕を対象にしたモデルのほか,ヒトの構造とは異なる仮想的な多自由度身体モデルも含めて,引き続き検討を進める. また,実践を通じた技能遂行に関する認知過程の検討については,概要に記した仮説を土台として,引き続き具体的な実践の場を題材とした考察・検討を進める.
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は,新型コロナ感染症拡大のために行動実験を実施することが難しく研究が進捗しなかったほか,打ち合わせや学会発表等はもっぱら遠隔で行い出張がなかったため,旅費や謝金の執行が少なかった. 次年度以降,新型コロナ感染症が収束することで,行動実験や出張が再開できると考えるが,現時点では見通しが立っていない.幸い,本研究費は基金で運用されているため,感染症問題が収束した時点であらためて研究を本格的に再開したい.
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