研究課題/領域番号 |
19K22867
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
橋本 直己 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (70345354)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | 人間拡張 / 視覚イメージ / プロジェクションマッピング |
研究実績の概要 |
今年度は、人が潜在的に獲得している視覚イメージを想起させるような映像演出を人の体に適用することで、自分の体が別の存在になったかのように感じられる環境の構築を行った。その中で、自身の腕の色や模様、さらには形状が変化する体験を実現し、被験者実験を通して評価を行ったところ、人の重さ知覚や力出力に影響を与えられることが確認できた。 この評価システムは、元々ディスプレイベースで構築していたが、より自由度の高い実験を行うために、頭部に搭載するヘッドマウントディスプレイを用いたシステムも平行して開発し、同様に心身相関効果が発現することを実験的に確認した。
また、実際に人の体、特に衣服に対して映像投影を行い、身体イメージを書き換えるシステムを実現するための技術として、非剛体形状推定技術による動的プロジェクションマッピング手法を開発した。人の素肌は剛体近似が可能である一方、人体は着衣が一般的であり、動きによって変形することが映像投影による補正の妨げになる。これに対応するための、マーカベースの変形推定を実現した。 映像投影に用いるプロジェクタを小型化するのに際して、機材個々の性能のばらつきや、劣化特性のモデル化が必要であることから、劣化モデルの構築と、それに基づく輝度補正技術に関する検討を行った。従来手法に比べて、一定の補正精度の改善効果が確認されたものの、劣化モデルに関しては、さらなる改善の余地があることも明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は、人が潜在的に獲得している視覚イメージが、身体知覚に影響を与える基礎システムを構築し、それによって目的としていた心身相関効果を引き出すことが大きな山場であった。これに関しては、先行研究として行っていた実験から引き継いだ、モニターを活用したシステムを発展させた実験システムと、最新の頭部搭載型のヘッドマウントディスプレイを使ったシステムを平行して開発し,双方において、同様の傾向の効果が予定通り確認できた。共同研究者の研究拠点にも同様の環境を構築し、平行して実験が進められるようになったことも大きな成果といえる。
また、実際に人体を書き換えるプロジェクションマッピングに関しても、小型複数プロジェクタを利用したシステム構築に関する検討を進めることができた。特に、人体への投影の難しさは、衣服への投影が含まれる点である。衣服の模様を打ち消して、異なる見た目を提示するためには、高度な動的プロジェクションマッピング技術が必要になる。その基礎となる変形形状推定技術を確立できたことは、大きな成果であるといえる。また、小型プロジェクタを複数利用する際の個体差を吸収する劣化モデルは、これまでに無い考え方に基づいたモデルであり、一定の効果が確認できたことも有望である。しかし、同時にそれによる補正限界も明らかになったため、さらなるモデルの導入を今後進めていく必要がある。
以上により、研究は概ね予定通り進行したと判断する。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策として、これまでに実装してきたHMDを使ったAR実験環境の拡張を行い、ユーザの移動を伴うシチュエーションにおける心身相関効果の実証を行っていきたい。これまでは頭部装着型のカメラによって人体動作を認識していたが、その方法による限界も確認されたことから、今後は光学式モーションキャプチャを用いた広域計測方式に切り替える。同時に、HMDの特性を活かし、これまで用いてきた一人称視点に加え、3に三人称視点による自己同一感のより効果的な生起についても検討を行う。また、それに合わせて、実環境と仮想環境を融合させる方法についても再検討を行い、提示映像の品質向上を目指す。実環境における操作対象物体のトラッキングも加えることで、実世界と仮想世界を同期させ、実験環境として利用していくフレームワークを構築する。
また、HMDベースのシステム開発と平行して進めている、人体プロジェクションマッピングシステムの開発も継続して推進し、評価実験ができる水準まで完成度を高めていく。そして、視覚の拘束や制約を減らした環境で本手法が実現する効果についての検討を行う共に、HMDを使った場合の映像提示性能や心身相関効果との違いを評価・検討する。さらに、これまではすでに獲得済みの視覚イメージを利用してきたが、映像コンテンツを提示することで、新たな視覚イメージの定着と、それを利用した心身相関効果の検証を進めていく。
そしてこれらを総合して、本提案によって人の知覚に影響を与え、結果として人間の能力を拡張するのに適したシナリオを見つけ出し、効果的な応用事例を示していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入予定だったモーションキャプチャ装置の発売が遅れたため、現有のもので性能をカバーしながら代用し、次年度に購入予定だった装置を購入する計画に変更した。
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