研究課題/領域番号 |
19K22869
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
大岡 昌博 名古屋大学, 情報学研究科, 教授 (50233044)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | 触覚 / Gestalt / 仮想表面 / 材質感制御 / ベルベット錯触 / バーチャルリアリティ / 情報統合化 / 理論構築 |
研究実績の概要 |
Gestaltとは,知覚する際に感覚器で得た部品情報を統合化して得られた統合化情報のことである.これにより,顔の認識,会話,音楽を理解することが可能となる.このようにGestaltは情報を統合化する上で重要であるが,触覚のGestaltについてはこれまで議論が進んでいない.一方,触覚の錯覚としてベルベット錯触(VHI)という現象がある.VHIとは,目の大きい金網を両手で挟んでこすると両手の間にすべすべした感触を感じる錯覚である.金網より二本の鋼線の場合の方が強く感じ,鋼線が一本ではなく二本以上で初めて生じる現象であるために,VHIはGestalt理論で説明できる.しかも,そのGestaltがもたらす情報がすべすべという表面状態である点が,視覚のGestaltと根本的に異なる点である.本研究では,心理物理学実験の結果に基づき触覚のGestalt理論を確立することを目指す.触覚のGestaltの研究の挑戦的研究として重要な点として,第一に,触覚認識の根本原理を明らかにできる可能性が挙げられる.第二に,実用面として種々の材質の表面を疑似的に感じさせるための方法論の創成に繋がりバーチャル・リアリティ技術に革新をもたらすと期待される. 本年度では,二本の鋼線の位相差と速度比を種々変化させて心理物理実験を行い,この2つのパラメータとVHI感の関係を調査した。その結果,触覚のGestaltとして平行移動と身長の要因を新しく導入して,これらによりVHI感を予測する数式を定式化した。同一の数式を用いて本年度のだけでなく,条件の異なる実験結果に対しても精度の高い予測が可能となることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理論構築する上で最も基礎となる触覚のGestaltとして平行移動と伸張の要因を新しく考案してこれらによりVHI感の惹起の程度を精度よく予測することを達成できた。したがって,理論構築に向けて最初のステップがクリアされたといえるため,表記の評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
バーチャルリアティに適用することを目指してドットマトリクスディスプレイを用いて行った実験に対しても本研究で定式化した式の適用してその精度を確認する。それとともに,必要に応じて新しいGestalt要因についても考案して,現在の式に組み入れる。そのためには,ドットマトリクスディスプレイを用いた実験を数多く実施する。さらに,それと並行してNIRSを用いてVHI感が生起されている時の脳の賦活状態を観測して,VHI感の生起課程についてより詳細に明らかにしていくことを計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和元年度の研究の結果,触覚のGestaltの要因として材質や温度もあり得ることが予測されるようになってきた。この考えを証明するためには新しい実験装置の設計製作が必要となる。また,fNIRSの運用にはファイバーやレーザー照射装置の修理交換が必要であることがわかってきた。そこで,次年度の研究には当初の予定より高額な経費が掛かることが判明したので,計画的に令和元年度の予算の一部を次年度使用額にまわし,新装置の設計製作とfNIRSによる脳の賦活状態の実験に役立てるとして使用計画を再度立案し直した。
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