本研究の目的は,レーザ光源とガルバノミラーによる熱放射技術を利用し,空間中で仮想物体の触質感をユーザに提示しつつ,仮想物体の操作を可能にする錯触覚提示システムを実現することである.触覚を介した変形を伴う対象とのインタラクションは,粘土細工を筆頭に,無から有を作り出すことができる人間の最も根源的な創造の形とも言える.多自由度かつ拘束なし,高速な応答性をもつ仮想物体との高品質な質感インタラクションシステムを実現することで,情報化された仮想物体への直感的,質的インタラクションを容易なものとし,人の創造性を促進するデバイスのための触覚提示手法の確立を目指す. 我々が提案する熱放射を利用した触覚ディスプレイは,これまでにない概念をもっている.ひとつ目は,温覚と痛覚が遷移する温度(45℃周辺)を利用することで,熱を利用しながら触覚のような強い感覚情報を生起させる点であり,ふたつ目は,熱を電磁波である熱放射を利用して与え,高速かつ高精度な制御を可能にしている点である.この二つの特徴を最大限に利用することで,これまでのディスプレイでは実現できなかった多自由度かつ拘束なし,高速な応答性をもつ空間知覚を実現し,さらに,錯触覚で問題となる視覚情報と齟齬を生じない,視触覚情報を同一空間で扱えるディスプレイとなる.そして,人の創造性を促進するデバイスとして視覚障害者を含む多くの人が容易に利用できる触覚技術となる. これまでの提示刺激に加え,振動子など他の触覚ディスプレイで利用する高周波刺激の熱放射への応用を検討してきた.信号の分類,生成,提示に関して機械学習を用いた手法を適用し,記録された振動から記録されていない振動信号の生成および弁別を検証した.あわせて,熱による痛み生成の機序を解明するため,ペルチェ素子を利用した熱提示装置を開発し,熱の時空間分布制御による痛み生成の応答性について検証した.
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