本研究は,生体の培養神経回路網とスマートスピーカーを接続し,神経電気活動から定義された感情極性に応じて対話内容を規定する,対話エージェントとしてのニューロロボットの実現を目的としている.3年目は,対話ニューロロボットを構築し,評価実験を行った. エージェントの片言の応答は必ずしも意味が通らなかったが,人間の側が無意識的に補完して意味を理解することから,自然と感じられる会話が成立する場合もあった.たとえば,「この間の学会では被災して大変だったよ (negative)」に対して,「痛苦 相伴 所以」と答えたエージェントの意図を,ユーザーが「(災害が)苦痛が相伴った所以だね」と答えたと解釈するような例が有った. 人間の側から自然と感じられるインタラクションには,まず文章の感情極性値計算が人間の主観と一致することが重要であることを示した.システムに用いた日本語評価極性辞書は,ネガティブ,ポジティブ,ニュートラルの3値の評価極性情報を持つが,細胞外多点計測システムの同時刺激可能な電極数の制約から評価結果をポジティブかネガティ ブかの二値に変換する必要があった.この変換制約と辞書の語彙数の制約から全ての文章の感情極性値計算が人間の主観と一致することはなかったが,培養神経回路網の実際の神経電気活動をもとに設定したエージェントの内部状態は,ある程度のばらつきはあるものの,概ねポジティブな文章に対してはポジティブを,ネガティブな刺激に対してはネガティブを指し示すと言う結果を得た.エージェントの内部状態が指し示す感情極性値は完全にランダムではなく,刺激を行うタイミングなどに依存して揺れ動いた.またこれらの結果から,核となる培養神経回路網を取り換えた各エージェントにポジティブ思考やネガティブ思考,また刺激に対して反応が薄いニュートラルなタイプなど,様々な個性が発現したことが示唆された.
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