研究実績の概要 |
本研究では「基本味間の時間的に過剰な統合が、偏食を引き起こす」という仮説のもと、味覚の時間情報処理を実験的に検証し、偏食の個人差と比較することで、発達障害者における偏食の背景にある神経メカニズムを理解し、エビデンスにもとづいた解決策の提案につなげることを目的とする。 短い時間差で異種の味刺激を提示するための味覚刺激装置を開発するとともに、オンラインでの調査を実施した。その結果、仮説に一致して味の混ざりへの忌避と自閉傾向との関連も示唆された(Chen et al., 2022)。一方、苦味を嫌う傾向の強い人が、スイカに塩をふることを好む傾向も明らかとなり、当初の予想とは異なる要因が関係することが示唆された(Chen et al., 2023)。さらに特定の色や形から想起される味に関する特徴と自閉傾向との関連も見出した(Chen et al., 2021)。 一方、心理物理実験と脳機能計測について、研究分担者・協力者と連携して味覚時間順序判断課題のセットアップに取り組んだ。結果、約500ミリ秒間隔で甘味・塩味刺激を提示し、その順序の判断を行わせることに成功し、そこに甘味・塩味の混合液を提示する試行を混在させるタスクを考案した。令和3年度下半期には、15名以上を対象にMEG計測を実施し、令和4年度・令和5年度には、心理物理実験により15名以上からデータ収集を行った。その結果、味覚時間順序判断中の混合液に対する応答について、共感性スコアが高い参加者は甘味が先と感じやすく、主観的な味知覚の特徴と関連がみられることが明らかになった(日本生理学会で発表)。受容体特性を考えると、塩が先に知覚されるはずであり、共感性スコアが高い参加者では強い修飾が生じていることが示唆された。以上のように、味覚情報処理の時間特性の個人差が、参加者の認知スタイルと関連することを見出した。
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