非侵襲計測では計測が困難なヒトの膝状体外路系の視覚情報処理を調べるために,眼球運動及び瞳孔径を指標とした高速眼球運動記録・解析システムを構築し,昨年度に引き続き健常者を用いた眼球運動計測を行った。具体的には,科研費で購入したリフレッシュ・レートが250Hz(4ms)のディスプレイと,250Hzで視覚刺激を提示できるGPUボードを採用したコンピューターに,両眼の眼球運動と瞳孔径を500Hzでサンプリングできる眼球運動記録装置を接続し,MATLABで計測・解析のためのプログラムを作成した。眼球運動及び瞳孔径を500~1000Hzで記録・解析できる計測システムは従来から存在したが,視覚刺激の呈示速度はディスプレイのリフレッシュレート(60Hz=16.7ms)に制限され,膝状体外路系が関与する潜時の早いエクスプレス・サッケードや持続時間の短い修正サッケードの特性を詳細に調べるには不十分だった。本システムの構築により,高速で提示される視覚刺激に対する眼球運動及び瞳孔径を高いサンプリング・レートで記録できるようになり,エクスプレス・サッケード及び修正サッケードを正確に記録・解析することが可能になった。このシステムを用いて,健常成人10名の各種のサッケード課題における鼻側網膜と耳側網膜刺激に対するサッケード潜時を計測した。当初の計画では,令和3~4年度は研究分担者が所属する研究機関において,構築した計測システムを用いて膝状体路系の障害による視覚障害者を被験者にして眼球運動の実験を行うことにより膝状体外路系機能の詳細を明らかにする予定であったが,新型コロナウイルスの感染拡大に伴う実験の制限により,視覚障害者を被験者にした実験を行うことは不可能であった。
|