毛髪や爪はその成長過程で血中のホルモンを取り込む。毛髪は1ヶ月に約1cm、爪は約2㎜成長する。よって、日々の体調を反映するホルモンが、その成長とともに毛髪や爪に蓄積されていれば、毛髪1㎝・爪2㎜にはそれぞれ1ヶ月分のホルモンの分泌状態が反映されることになる。つまり、この仮説が正しければ、毛髪・爪は「健康状態の記録媒体」と言える。この仮説を検証するため、本研究は、日々の体調を反映する体内のホルモンの変動を定量し、その変動の積分値が毛髪や爪に蓄積された同ホルモンの量に比例するか否かを実験的に精査する。具体的には、①体内のホルモン変動(瞬時値)を1ヶ月間、経時的に定量してその積分値を求め、②同じ期間に成長した毛髪・爪に含まれるホルモンを定量し、③両者の関係性を精査する。①において、「体内のホルモンの変動」を長期間にわたり、精密に調べようとする場合「唾液」が唯一の解決策である。唾液には体内のほぼ全てのホルモンが含まれており血中濃度との相関も高い。ただし、多くのホルモンは概日周期を有するため、1日3回(1ヶ月間)採取して正確な変動曲線を求める。②「毛髪・爪のホルモン」は対象期間に成長した分量を精密に定量する。毛髪は1ヶ月に約1cm、爪は約2mm成長する。尚、分析に必要な検体量は5-10mg程度である(毛髪:数十本・爪:指1本分)。①および②で収集した検体から生化学分析によりターゲットとするホルモンをそれぞれ定量した結果、爪コルチゾールと唾液コルチゾールの間に爪成長の時差を伴いつつ、有意な相関関係が認められた。同成果は海外論文誌にて公表された。
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