研究課題/領域番号 |
19K22893
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研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
飯田 弘之 北陸先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 教授 (80281723)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | ゲーム洗練度理論 / 心地よさ / 満足感 / エンタテインメント / スポーツ競技 / 思考の世界の力学 / 思考ゲーム |
研究実績の概要 |
ゲーム洗練度理論(Iida 2004)では遊戯性発揚の観点からスリル感を表す数理モデルを構築し,当該モデルから導出する二階微分値(情報加速度)をスリル感度合いとして解釈することで,ゲーム等の対象イベントのゲーム洗練度指標として用いる.長い歴史を経て洗練淘汰されてきたチェスや将棋や囲碁などの伝統的思考ゲームではその指標の値がほぼ一定になることが知られている.本研究では情報加速度に限定せず,基本的な力学概念をさらに援用し,思考の世界の力学としての一般化を試みた.伝統的な思考ゲーム,多人数によるカードゲーム,オンライン対戦型のビデオゲーム,人気のスポーツ競技などを題材として,実際の競技データや人工知能によるシミュレーションデータの分析に基づいて当該理論の妥当性を検証した.ここでは,スリル感を表す情報加速度を重力加速度としてとらえ直し,不快感と関連すると想定される加加速度も考慮し,質量・速度・運動量などを考慮しながら,エンタテインメント性に関する深い洞察を試みた.ゲームの重要三要素(プレイヤレベル,スリル感レベル,ゲームの長さ)の間にある関係性を導き出すことに成功し,実データとほぼ一致することが確認できた.本研究を通して,当該理論がエンタテインメント科学ないし心地よさの科学としてさらに発展できる可能性を示すに至った.ゲーム情報学文脈ではモンテカルロアプローチや深層学習等の新たな手法で伝統的思考ゲームで名人をはるかに超える人工知能が達成されたが,さらに一段深いレベルで人工知能が,ゲームやスポーツ競技などの娯楽文脈における達成感や満足感を表す数理モデルを確立することで人工知能研究の新たなパラダイムを構築する道が拓かれつつある.とりわけ,思考の世界の力学のフレームワークで,思考の世界における重力概念,ゲーム等対象タスクの難易度や質量の概念に関する理解が今後の重要課題としてあげられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
思考の世界の力学というまったく新しい力学概念の理論体系をまとめるのは容易なことではないので慎重に本研究を進めてきたが,申請段階で想定していたアイデアが,理論と実データの整合性の関連から有望であることが判明し,当初計画以上に進展する結果となった.
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今後の研究の推進方策 |
思考の世界の力学を体系化する際の重要課題の一つは,思考の世界での重力概念に関する理解であると考えている.ニュートン力学では重力と万有引力の考えに到達し,その後,アインシュタインはより高次の重力理論を構築し慣性質量と重力質量の等価性を主張したが,思考の世界では重力は固有の定数であるとは考え難く,また,慣性質量(対象タスクの難易度とユーザレベルで決定)と重力質量(競技では相手の強さによって重さが異なる)も一般には異なると考えるべきと予想される.一方,現時点での議論では普遍物理量が定まらないという弱点がある.それゆえ,スリル感としての情報加速度の標準値は,長い歴史を経て十分に洗練淘汰されてきたと想定されるチェスや将棋や囲碁などの伝統的思考ゲームから抽出している.理論としては合理性があり,様々な競技において勝敗を決めるのに合理的なゲーム長さ(手数や合計得点など)をどのように設定するかなど,提案理論と実際のデータとの整合性がとれているが,普遍性のある物理定数がまだ発見できていない.本研究では,スリル感の代表としてジェットコースターの遊戯性解析も同時進行で実施しており,重力gの感じ方は人さまざまである.遊園地で楽しむ場合,3gや4gといったように若い人はより大きな重力を楽しむ傾向にある.同じように,エンタテインメントと関連して,思考の世界でもより大きな重力加速度を求める傾向があることが,提案する理論をゲーム変遷などの実データに適用することで観察される.つまり,速度の変化ダイナミクスが気持ちの変化(心地よさの科学)に影響を及ぼしている.特に,加加速度は重要であると認識している.一般論としてのゲーム中毒という概念が議論されているが,本研究で検討している理論と深く関係しているものと容易に想像できる.以上のような多方面にわたる検討事項を扱い,思考の世界の力学の体系化に近づけるように推進したい.
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に予定していた国際会議が中止となったため,発表を次年度以降に予定変更した。また,計算機を購入予定していたが,別予算での購入が可能となり,次年度以降に高速計算機を購入し研究をさらに推進できるように配慮した。
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