研究課題/領域番号 |
19K22895
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
備瀬 竜馬 九州大学, システム情報科学研究院, 准教授 (00644270)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | バイオイメージインフォマティクス / 弱教師学習 / PU-Learning / 画像情報学 |
研究実績の概要 |
本研究課題では,バイオ医療画像解析特有の対象構造事前知識を用いることで,機械学習に必要な学習データを自動抽出し,アノテーション作業を省力化することを目的とする.具体的には,対象構造事前知識を活用し正例データを自動抽出し,一部の正例とたくさんのラベル不明サンプルの特徴量空間上の分布から,負例の分布が不明でも,特徴量空間上の適切な識別面を見つけることができるPositive Unlabeled(PU)-Learningを活用した研究開発を行う.2019年度は,光超音波画像における体毛領域の自動認識を例として研究開発を進めた.光超音波イメージングでは生体内の血管および剃毛後の皮膚下に残った体毛の毛根部を三次元的に可視化することができ,体毛の太さや数といった情報を定量化することは美容外科の分野でニーズがある.従来の教師あり学習では,撮像条件が変わると機能しない場合が多く,撮像機器や撮像パラメータごとに学習データを用意する必要がある.本研究の重要なアイデアの 1 つは,PU-Learning 時に利用する特徴量空間とは別の特徴を用いて正例抽出をすることである.提案手法では,「体毛は体表に沿って存在し,血管よりも上部にある」という空間構造事前知識を用いて,自動で正例サンプルを抽出し,構造特徴とは経験的に相関が小さい輝度特徴量を利用することで,PU-Learningを適用できるようにした.本研究の利点は,テストデータの分布に基づいて学習できることであり,テストデータにおける分布の違いに対応できる点である.その結果,人によるアノテーション全くなしで,体毛の数や輝度値が全く異なる複数のデータで高い精度(AUC)を実現した.加えて,バイオ医療画像解析の省力化を目的として,画像の集合を簡易にアノテーションすることが可能なグループベースラベリングのためのソフト制約クラスタリングの開発を行い,MICCAI2019での論文採択に至った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画書で提案したアプローチを実際の生命・医学研究課題である3D光超音波画像における体毛領域という課題を例として,実現可能であることを示した.具体的には,空間事前知識を用いて正例サンプルを自動抽出し,空間構造特徴とは相関が経験的に低い輝度特徴をPU-Learningに用いることで,特徴量空間における正例サンプルのランダム性を確保し,PU-Learningが機能するようにした. 加えて,本提案研究の目的であるバイオ医療画像解析の省力化を目指して,関連研究として,バイオ医療画像解析の省力化を目的として,画像の集合を簡易にアノテーションすることが可能なグループベースラベリングのためのソソフト制約付きクラスタリング手法(医療画像解析のトップ国際会議MICCAI2019(採択率:30%)に採択)の開発を行い,成果を出している.さらに,病理画像における細胞腫の認識問題にもPU-Learningを用いた手法の研究開発を開始している. これらのことから,研究計画において本年度計画していた内容を十分に達成している.
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は,2019年度に開発した手法の評価を進め,論文として投稿する予定である.具体的には,複数機関の異なる装置で撮影した画像を利用して検証を進める.また,本研究計画で提案したアプローチが複数の全く異なる課題で有用であることを示すため,現状,研究を開始しているPU-Learningを用いた病理画像における細胞腫の認識手法の研究開発を進める予定である.研究成果は,学会や論文での発表に加えて,プログラムコードも広く公開することで,医学・生命科学・情報学の学際分野に貢献していく予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
R1年度はコンセプトの実証に重きを置き,少数データで実験を行ったので,研究室現有の計算機でも,実験を実行できた.多数のデータを用いた実験を前倒しして実施すべく,大規模計算用ワークステーションの購入も試みたが,年度末に全世界的な品薄状態が発生し,所望の形式の購入は断念した.R2年度は,R1年度の成果を論文化するための追加実験及び,別のアプリケーションでの研究テーマを新たに他の大学生が行うため,共通で利用可能な高性能計算機を購入する予定である.
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