研究課題/領域番号 |
19K22902
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
齋藤 秀之 北海道大学, 農学研究院, 講師 (70312395)
|
研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
|
キーワード | ブナ林 / 環境影響評価 / エピゲノミクス / 花成 / 光合成 / DNAメチル化 |
研究実績の概要 |
新型コロナによる研究活動自粛の要請をうけて、当初、フィールドで計画した研究内容を縮小してコロナ下で活動可能なキャンパス内および実験室で実施可能な課題に修正して研究活動を行った。 (1) 全国ブナ林から採取して冷凍保管してあった葉のDNA抽出を行い、葉緑体ゲノムのDNAメチル化の実態を調べた。(2)黒松内町ブナ林において花芽分化期の花成遺伝子群の発現を調べた。(3) 開芽期のオゾン曝露ならびに根切りによる葉の酸化ストレスが光合成の季節変化に与える影響について、ブナのポット苗木を材料に実験した。大気オゾン曝露と根切り処理により葉に対して酸化ストレスを与えたところ、葉緑体ゲノムにコードされるリボソームRNA遺伝子のDNAメチル化率が増加した。さらにリボソームRNA量の減少を伴い、クロロフィル量の季節変化における低下の開始時期が有意に早まった。(4) 初年度に明らかとなったFT遺伝子の転写量と負の相関を示すトランスポゾン様Non-coding-RNAの実態解明を試みた。ポリアデニル酸(ポリA)鎖をもつRNAから作成したcDNAを対象にPCRを行い、FT遺伝子の翻訳開始点より上流-750ポジションから末尾のエクソンまでのPCRで転写産物を確認することができ、FT遺伝子のプロモータ領域から4つのエクソン領域までを広く遺伝子全体をカバーする長鎖のnon-coding-RNAであることがわかった。(5) 開芽期の切り枝を用いた養分ならびに大気オゾン操作実験を行い、窒素、リン、糖の3要素ならびに大気オゾンによる酸化ストレスがFT遺伝子のDNAメチル化に与える影響を調べた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の主題である「季節的な時間の隔たりがある場合の因果関係」について、ブナ苗木を用いた実験により、開芽期の葉の酸化ストレスがDNAメチル化を介して秋期の葉の老化開始時期に対して遅発影響を与える現象を明らかにして、春季ストレスのエピジェネティックな調節機構の作用を明らかにした。この成果は計画当初の作業仮説を支持するもので、本課題の難関な挑戦的ポイントを解決できたことを意味する。他方、進捗が順調ではない点として、新型コロナによる活動自粛要請によりフィールド調査が十分に行えなかった点、DNAメチル化のゲノム網羅的な地図の作成においてはターゲット遺伝子である花成関連遺伝子に関する情報が十分に得られず、継続解析が必要となった。
|
今後の研究の推進方策 |
新型コロナの第4波により活動自粛が始まり、本年度のフィールド調査日程が見通せない状況である。この状況を踏まえると、当初の研究計画にあったフィールド操作実験に関する計画変更も含めた推進方策を考えたい。 (1) 前年度に引き続き、ブナ苗木を用いて開芽期のオゾン曝露が光合成の恒常性維持に与える影響を調べる。 (2) ブナの切り枝を用いて、開芽期のオゾン曝露による酸化ストレスが花成遺伝子のDNAメチル化と遺伝子発現に与える影響を調べる。
|