黒松内町ブナ二次林(約100年生)の林冠木6個体の陽葉を対象に、花芽分化時期(6月下旬~7月上旬)の花成に関連する遺伝子群の発現量をリアルタイムPCR法で調べ、翌年春期の開花実態との関係を調べた。また過去のデータを含めて花芽分化の年変動と花成関連遺伝子の発現調節の関係を解析して、FT(Flowering locus T)遺伝子の発現量が花芽分化の年変動に関係していることを明らかにした。 ブナ成木の切り枝を用いてオゾン曝露が葉のFT遺伝子のプロモータ領域におけるDNAメチル化に与える影響をDNAメチル化感受性制限酵素とリアルタイムPCR法により調べた。またブナ苗木を用いて開芽時期のオゾン曝露(約110 ppb・4時間/日,平均9.4日分)が葉の葉緑体リボソーム遺伝子のDNAメチル化と葉緑体リボソーム量、葉の形態(LMA:面積あたりの乾重量)とクロロフィル量(SPAD値)ならびに光飽和光合成速度に与える影響を調べた。開芽期のオゾン曝露は葉の形態に影響を与えない程度であり5月から6月までの光飽和光合成速度に違いは現れなかったが、7月以降の光飽和光合成速度が対照に比べて低いことを明らかにした。この時、開芽期のオゾン曝露期間においてオゾン曝露個体の葉の葉緑体リボゾーム量は増加していたが、夏期には対照個体に比べて少なくなっていたこと、さらに夏期の葉緑体リボソーム量の減少はDNAメチル化率の上昇をともなっていた。これらの結果から、開芽期のオゾン曝露による酸化ストレスが光合成能力の季節変化に与える遅発影響を葉緑体リボソームのエピジェネティック制御の視点から考察した。 なお新型コロナによる活動自粛要請のため、ブナ林の林冠でのオゾン曝露操作実験は宿泊を伴うために実行できず、代替の方法に変更して研究を実施した。
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