研究課題/領域番号 |
19K22903
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
鈴木 愛 東北大学, 未来科学技術共同研究センター, 准教授 (40463781)
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研究分担者 |
安井 学 国立医薬品食品衛生研究所, 変異遺伝部, 室長 (50435707)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | B型DNA / 塩基配列 / 8-オキソグアニン / 分子認識 / 体温 / 量子ダイナミクス / 水和水 / 水和層 |
研究実績の概要 |
DNAの健康状態を監視し損傷を除去するヒト修復除去酵素8-oxoguanine glycosylase (hOGG1)はDNA中のグアニンが酸化損傷を受けた分子である7, 8-dihydro-8-oxoguanine(8-オキソグアニン)が孤立・離散して塩基配列中に存在している時は高効率で除去するが、8-オキソグアニンが密集して存在している場合は除去しない。hOGG1とDNAの間には、何らかの選別基準に則した分子認識機構が存在し、損傷除去反応が起こる塩基配列と、損傷が残存したままとなる塩基配列が予め決まっていると考えられる. しかしDNA構造の内在因子に影響されhOGG1とDNAとの初期分子認識過程は実験では解明し難い。そこで、広範囲な量子ダイナミクスを、無傷のDNA塩基配列、損傷が除去される塩基配列、損傷が残存したままとなる塩基配列の3次元構造に適用した。 グアニンが酸化された分子である8-オキソグアニンは、hOGG1によって特異的に除去される。hOGG1の触媒作用により、DNA中の8-オキソグアニンとリボース間の N-グリコシド結合が回転し、DNA中に孤立して存在するケースの8-オキソグアニンは除去されるが、損傷の数や、損傷の存在形態、具体的には、クラスター化して存在するのか、孤立して存在するのか、によってhOGG1の反応性は変容し損傷が除去されないケースがあるが、そのメカニズムが理解されていない。そこで、単独孤立8-オキソグアニン損傷をもつDNA、連続した8-オキソグアニン損傷をもつDNAが無傷のDNAと如何に異なるかを比較した。二面角や水和水分子のグアニンやオキソグアニンへの配向を比較した。また、DNA水和水とDNA中の損傷との距離を動径分布によって表す方法も確立しつつあり、適宜学会にて報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
DNA骨格を規定する全種ねじれ角度やグリコシド結合角を無傷のDNAのねじれ角と比較し、DNAが損傷を受けることによって生じると想定される骨格構造のゆがみを数値解析し、8-オキソグアニン損傷除去率の実測値と、損傷除去される配列パターン、損傷除去されない配列パターンを相対比較した。B型DNA周辺を取り囲む水分子やDNA配列内に損傷が存在する分子夾雑な環境を適切に表現できる、精度が第一原理計算と同等でありながら高速に体温・水和水中での量子ダイナミクスを水和DNA3次元構造に適用して解析を進めた。 酸化損傷8-オキソグアニンを含むDNA骨格構造のX線結晶構造は、生体内の状態とは異なるパッキング構造であり、DNAに8-オキソグアニンが含まれる事で、生体内部に存在するDNAにどのような違いが生じるのか、本来の生体内部を正確に描写する上で不可欠な水和水中の昇温緩和過程を含む量子分子ダイナミクスが適用できるか試行を重ねた。 無傷のDNAオリゴヌクレオチド中のグアニン:シトシンと、単独孤立8-オキソグアニン(anti配座):シトシンを有するDNAオリゴヌクレオチド、2連続した8-オキソグアニン(anti配座):シトシンを有するDNAオリゴヌクレオチドを体温、水和環境下で緩和した後、量子計算を行い、その結果得られた個々の原子の電荷を用いて分子動力学計算を行った。結果、損傷の有無によって変化するDNA骨格およびグリコシド結合角の差が見られた。また動径分布関数による水分子の集合形成タイプについても解析する手法を確立した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、無傷のDNAオリゴヌクレオチド中のWatson-Crick型グアニン:シトシン塩基対を、これと同じ配座であるanti配座の8-オキソグアニン:シトシン塩基対を孤立および連続損傷としてDNAオリゴヌクレオチド中に構築し、立体構造を比較してきた。この配座による比較をより長い計算スケール、ns(ナノセカンド)まで延長して検証する。 並行して、8-オキソグアニンは複製が進むと、約半分がアデニンとの塩基対に変化する事が知られている。そこで、プリン塩基であるアデニンおよびグアニンともHoogsteen塩基対を形成した、8-オキソグアニン:グアニン/アデニンのanti型/syn型塩基対を含むオリゴヌクレオチドを比較対象に含め、従来から基質-酵素間で適用されてきた基質特異性のメカニズムがDNAの塩基配列特異性としても当てはまる可能性を検証する。 この時、より長いオリゴヌクレオチド鎖を用意し、損傷塩基対同士の離散の程度と、DNAヘリカル骨格のほどけ具合も数値解析に含め、連続損傷の場合と比較・検証する。 また、対イオンであるNaカチオン、Caカチオン、Mgカチオンが混在するさらに原子/分子夾雑な環境についてもDNA水和層中の対イオンと8-オキソグアニン損傷との動径分布を比較しながらその関係を検証していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
大規模集会禁止措置のため、講演予定の学会会場への往復ができなくなったため。
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