DNAの健康状態を監視し損傷を除去するhOGG1(8-オキソグアニングリコシラーゼ)はDNA中のグアニンが酸化損傷を受けた分子である8oxoG(8-オキソグアニン)が 孤立・離散して塩基配列中に存在している時は高効率で除去するが、8oxoGが密集して存在している場合は除去しない。hOGG1-DNAの間には、何らかの選別基準に則した分子認識機構が存在し、損傷除去反応が起こる塩基配列と、損傷が残存したままとなる塩基配列が予め決まっていると考えられる。 しかしDNA構造の内在因子に影響されたhOGG1とDNAとの初期分子認識過程は実験では解明し難い。そこで、精度が第一原理計算と同等でありながら高速な量子ダイナミクスを健康なDNA塩基配列、損傷が除去される塩基配列、損傷が残存したままとなる塩基配列の3次元構造に適用し、DNA鎖の構造を解析した。 DNAヘリックス鎖のねじれや損傷塩基対から構成されるグリコシド結合の相違を無傷なDNAのものと比較し、DNAが損傷を受けることで生じる骨格構造を8oxoG損傷除去率の実測値と比較検証した。 オリゴヌクレオチドにG:C(Guanine:Cytosin)を含む無傷のDNA、1か所の孤立損傷8-oxoG:C(8-オキソグアニン:Cytosin)をもつDNA、2か所の連続した損傷8-oxoG:C(8-オキソグアニン:Cytosin)をもつDNAを体温および水和環境下で高速化量子ダイナミクス計算を行った結果、損傷の有無によってDNA骨格およびグリコシド結合角の差が見られた。また動径分布関数の解析結果から、水分子の集合形成も異なる事がわかり、これらが塩基配列特異性を示す要因であると考えられる。
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