研究課題/領域番号 |
19K22904
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
濱 健夫 筑波大学, 生命環境系, 名誉教授 (30156385)
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研究分担者 |
大森 裕子 筑波大学, 生命環境系, 助教 (80613497)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | 海洋細菌 / 抗生物質 / 細菌群集組成 / ゲノム分析 |
研究実績の概要 |
自然細菌群集に対する抗生物質の影響評価実験にあたり、抗生物質の種類を決定するため、我が国の水産業において使用されている抗生物質の種類および使用量を調査した。その結果、エリスロマイシンおよびオキシテトラサイクリンの2種類が、全体の使用量の7割超えることから、両種を実験に用いることとした。 細菌を含む微生物群集を、静岡県下田市の筑波大学下田臨海実験センターから採取した。抗生物質を添加しない対照培養系と、エリスロマイシンおよびオキシテトラサイクリンを、それぞれ0.02、0.2、2および200μg/Lを添加した培養の合計9種類の培養系を設定した。 実験開始後、0日(実験開始時)、3日、10日、30日および100日後に試料を採取した。細菌の細胞数を計数する手法として、蛍光顕微鏡法とフローサイトメトリー法を検討した。フローサイトメーターの条件設定を適正に行うことにより、両者の結果がほぼ一致したため、多数の試料を短時間で測定可能なフローサイトメトリー法を採用することとした。細菌数は培養開始から10日目まで増加し、以降、30日目、100日目と減少した。一方、抗生物質の種類や添加量による顕著な差は認められなかった。 細菌の16sRNAを用いたゲノム解析により、細菌群集組成を明らかにした。全ての試料において、アルファプロテオバクテリア綱、ガンマプロテオバクテリア綱、およびフラボバクテリウム綱の3綱が多くの割合を占めた。抗生物質を添加後3日目では、抗生物質を200μg/Lの濃度で添加した試料において、フラボノバクテリウム綱の占める割合が対照培養系に比較して20%以上減少した。一方、ガンマプロテオバクテリア綱の占める割合が10-15%増加した。この結果から、抗生物質の添加への応答が、細菌分類群により異なることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
抗生物質を添加した100日間に渡る長期培養実験を実施し、16sRNAを用いたゲノム解析の結果、細菌の群集組成に対する抗生物質の影響を明らかにすることができた。抗生物質の添加により、フラボノバクテリム綱の寄与が低下する現象が確認されたが、自然細菌群集に対する抗生物質の影響を実験的に確認したのは、本研究が初めてである。このため、本研究の主要な目的は達成できたものと思われる。 群集組成とともに研究の基幹となる細菌細胞の計数に関して、蛍光顕微鏡法とフローサイトメトリー法の両者について、定量的検討を行い、両者の関係を明らかにした。この結果、多数の試料の分析に適したフローサイトメトリー法を、本研究に適用することが可能となった。一方、凝集体中の細菌の計測に関しては、超音波処理により正確さが増したが、測定困難な細胞も残存した。この点に関しては、引き続き検討が必要である。 当該年度の培養実験では、抗生物質の濃度が0.02~200μg/Lと、比較的低濃度下での実験を実施した。この条件下においては、細菌群集組成の変化が明らかとなったが、細菌全体の細胞数への影響は顕著ではなかった。このため、より高濃度下での実験を計画したが、新型コロナウイルスによる大学での研究活動自粛のため、年度末における実験の開始が不可能となった。実験準備は整っているため、実験が可能となり次第、実施の予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今回実施した0.2~200μg/Lの濃度下での実験において、細菌群集組成に対する影響は確認できた一方で、細菌細胞数に対する抗生物質の影響は明確ではなかった。このため、抗生物質の濃度を増加した実験を実施する予定である。 16sRNAを用いた細菌群集組成の解析は非常に有効であった。このため、本解析を行う濃度範囲を当初の予定より拡大し、群集組成に影響を与える濃度の特定を目指す。 研究の基幹情報となる細菌細胞数に関して、自然海水中に存在する懸濁粒子や凝集体内で成長する細菌の正確な計数が困難であった。この問題は、超音波処理等では完全に解決することができなかったため、従来の培養法を見直すこととした。今後は、実験前に凝集体形成の原因となる植物プランクトン等を除き、グルコースの添加により細菌を増殖させる培養法を検討する。これにより、培養系における懸濁粒子・凝集体の形成を抑制することが可能となり、細菌細胞数への抗生物質の影響を、より正確に評価することが可能となると期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
抗生物質の濃度を増加した実験を計画していたが、培養方法改良の検討および新型コロナウィルスの影響により、次年度に実施することとした。
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