研究課題/領域番号 |
19K22906
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
高田 秀重 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (70187970)
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研究分担者 |
小川 浩史 東京大学, 大気海洋研究所, 教授 (50260518)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | 海洋プラスチック汚染 / コロイド / マイクロプラスチック / ナノプラスチック |
研究実績の概要 |
近年のコロイド分野の研究の進展から、タンジェンシャルフローの濃縮に限界があることを認識し、中空糸膜を使った濃縮法を検討し、100Lの海水から数十mg程度の溶存有機物を集められることを確認した。 有機物の分解方法の条件付けを行った。セルロース等の有機物の分解には過酸化水素による酸化分解では不十分で、過酸化水素に硫酸鉄(II)を添加したフェントン反応を利用することが効果的あることが明らかになった。過酸化水素および硫酸鉄(II)の濃度、温度、光の照射の有無の影響を検討した。条件によっては反応が急激に進み、温度が上がりすぎてプラスチックの変性を招くことも明らかとなった。検討の結果、20mLの水溶液に分散させた微細プラスチックと天然有機物を分解するには、30%過酸化水素50mLと50 mMの硫酸鉄(II)水溶液5mLを加え、室温またはホットプレート上で摂氏40度以下に保持しながら3日以上蛍光灯下で分解する方法が最適であることを明らかにした。タンパク質等の生体有機物の分解にはアルカリ加水分解を組み合わせることが効果的であることも確認し、条件検討を行った。アルカリ加水分解の条件として、湿重量1gの生体有機物あたり10mLの10%KOH水溶液を添加し、摂氏40度以下に保持しながら2日以上かけて加水分解する条件を見いだした。これらの方法における回収率を粒径の異なるポリエチレン製マイクロビーズを使って検討した。125から150マイクロン、63から75マイクロン、27から45マイクロンのマイクロビーズのフェントン処理とその後の密度分離における回収率は、それぞれ、93%、80%、63%と粒径が小さくなるにつれ、回収率が低下することが明らかとなった。ナノサイズの粒子の場合はさらに回収率は低下すると考えられることから、界面活性剤の添加等の操作を組み合わせることが必要であることも明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
ナノプラスチックの濃縮法、天然有機物の分解条件の検討を行い、その後検討用試料をフィールドで採取する段階でコロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言によりフィールドに出ることができなくなり、それ以降の研究が進められなくなった。また、予定していた熱分解装置の購入・設置も、設置のための実験室の環境整備の遅れと、納入業者との交渉が緊急事態宣言により遅れて、設置できていない。
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今後の研究の推進方策 |
コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言が解除されたので、以下の作業を進める。東京湾で海水100 Lを採取し、通常のガラス繊維濾紙(孔径1um)でろ過し、ろ液を得る。このろ液を中空糸膜を使って100Lの海水から数十mg程度の50kDa以上の分子量の溶存有機物を集める (小川担当)。まず、濃縮されたコロイド粒子から密度の大きな粘土鉱物と煤を密度分離により沈殿させて取り除く。密度分離だけで粘土鉱物と有機物の分離が不十分な場合には、フッ酸による鉱物の分解も施す。次に、各種の酵素を使い、リグニン、セルロース、炭水化物、タンパク質、脂質を分解する。残渣にフェントン反応と加水分解を施し自然由来の有機物を分解・除去し、ナノプラスチックのみが濃縮された画分を得る(高田担当)。 ナノプラスチック画分は、まず、電子顕微鏡(東大大気海洋研究所共通機器)を使って、粒子の大きさと形状を測定する(小川担当)。次に、ナノプラスチック画分の一部をパイロライザー(熱分解装置)付きガスクロマトグラフ-質量分析計(Py-GC-MS)に導入し、プラスチックの同定・定量を行う(高田担当)。ポリマーの構成ユニット(エチレン、プロピレン、スチレンなど)に固有なオリゴマーのピークとそれらのスペクトルを基にポリマーの同定とプラスチックの定量を行う。多くのプラスチックに共通して添加されている紫外線吸収剤等の添加剤に由来するスペクトルもプラスチック同定に用いる。なお、熱分解装置導入は急ぎで行う。 一部の試料については500 L程度の試水を濃縮・処理し、比較的多めのナノプラスチック画分を得る。それを加速型質量分析計(AMS:東大大気海洋研究所共通機器)に導入し、放射線炭素同位体比(14C)の測定を行う。14Cの割合から、ナノプラスチック画分のプラスチックの含有量を推定する。(小川担当)。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は熱分解装置の設置のための実験室内条件整備に手間取り、熱分解装置の購入が進められなかった。コロナウイルス感染拡大への対応状況を勘案しながら、速やかに熱分解装置設置のための実験室内条件の整備を進め、熱分解装置を設置し、予算の執行を行う。
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