本研究は、酸素の極微量安定同位体である質量数17の酸素原子(17-O)を標識 (トレーサー) に用いた、高感度かつ高確度、そして簡便な水試料中の呼吸速度定量法を開発することを目的としている。 本年度前半は、9月に実施予定の海洋観測に向けて、各種準備作業を行った。有光環境下で採取した試料を培養する場合、培養時の光量を現場と等しくなるように調整する必要があるため、これを実現出来るインキュベータを準備した。また前年度に引き続き、培養容器の選定とブランク量等の評価を行った。具体的には超純水を試料として、多種の容器やゴム栓の組み合わせの中から、ブランク量をより低く抑えることの出来る容器を選定した。また最終的なブランク量や検出下限を見積もった。 しかし2020年度中に三重大学の「勢水丸」を利用して実施予定となっていた伊勢湾 (最大水深約40 m) における観測は新型コロナ禍で中止となり、実施出来なかった。そこで2020年8月31日に琵琶湖(最大水深約100 m)で代替の観測を実施し、有光環境下を含めた呼吸速度(=酸素消費速度)の鉛直分布を取得した。その結果、水柱の呼吸速度は、表層で速く、深層で遅くなる鉛直分布を示すことが明らかになった。これは新鮮な光合成で生成する新鮮な有機物が、水中呼吸速度の制限要因となっていることを示唆する。また有光下で培養して求めた水中呼吸速度は、無光下で培養して求めた水中呼吸速度と比較して有意に速く、従来の暗瓶法で求める呼吸速度は有光下の試料に対して不正確であることが実証された。また水柱積算した温度躍層以深の総呼吸速度(=総酸素消費速度)は、湖底堆積物による総呼吸速度を上回っており、貧酸素水塊の形成を考える上で、水柱の酸素消費も無視出来ないことが明らかになった。
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