研究課題/領域番号 |
19K22911
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
国末 達也 愛媛大学, 沿岸環境科学研究センター, 教授 (90380287)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | 残留性未知物質 / バイオアッセイ / 機器分析 / 核内受容体 / 生物蓄積 |
研究実績の概要 |
本年度は、既に高分解能ガスクロマトグラフ質量分析計(GC-HRMS)を用いて組織中の塩素化ダイオキシン類濃度が明らかとなっている野生鳥類の肝臓を対象に、細胞内受容体介在活性の評価が可能な in vitro アッセイ(CALUX:Chemical Activated Luciferase EXpression)を駆使して同一硫酸処理抽出液中の総アリル炭化水素受容体(AhR)アゴニスト活性を測定した。その結果、分析した全ての検体から活性が認められ、その活性値は猛禽類で最も高く、次いで魚食性鳥類>雑食性鳥類の順であった。このように鳥類の中でも猛禽類は、高レベルのダイオキシン様活性物質を肝臓に蓄積していることが判明した。既に測定済みの塩素化ダイオキシン類(PCDD/Fs・DL-PCBs)に加え、臭素化ダイオキシン類(PBDD/Fs)の分析も新たに試みたが、すべての検体で検出下限値未満であった。REP(Relative Effect Potency)から算出したPCDD/Fs・DL-PCBsの総TEQレベルは、上記のDR-CALUXの総活性値と概ね同等であったことから、鳥類の肝臓に蓄積するダイオキシン様活性物質の大半は、硫酸処理抽出液中ではPCDD/FsおよびDL-PCBsであることが示唆された。塩素化ダイオキシン類の寄与割合に着目すると、DL-PCBsの寄与が相対的に高割合を示し、野生鳥類はPCDD/Fsに加えDL-PCBsにも相当量曝露されており、毒性上のリスクも高いことが推察された。 また本年度は、昨年度最適化した2次元ガスクロマトグラフ飛行時間型高分解能質量分析計(GC×GC-HRTOFMS)の測定条件で、瀬戸内海の沿岸域で採取した二枚貝を対象にスクリーニング分析を実施し、未知物質の検出・同定にも成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、ダイオキシン類様活性アッセイ法(DR-CALUX)を用いて野生鳥類の肝臓を対象に、硫酸処理抽出液中のAhRアゴニスト活性を測定し、猛禽類が高いレベルのダイオキシン様活性物質を肝臓に蓄積していることを明らかにした。臭素化ダイオキシン類(PBDD/Fs)の分析を新たに試みたが、すべての検体で検出下限値未満であり、その活性の大半は塩素化ダイオキシン類で、とくにダイオキシン類様PCBs (DL-PCBs)が寄与していることが判明した。しかしながら、硫酸処理で消失する易分解性化学物質の評価ができていないため、現在、酸処理で消失する昜分解性物質を含む多様なAhRアゴニスト活性をGPC (Gel Permeation Chromatography)処理した抽出液を用いて確認・解析しているところである。その際、DR-CALUXはpolycyclic aromatic hydrocarbons (PAHs)などの昜分解性AhRアゴニストを代謝する可能性があるため、アッセイ細胞による代謝の影響を抑えるよう改良されたPAH-CALUXも検討している。 また本年度は、低次沿岸生物である二枚貝を対象に、昨年度最適化したGC×GC-HRTOFMSの測定条件下でスクリーニング分析を実施し、これまで同定されていなかった新規の有機ミックスハロゲン化合物の存在を明らかにした。現在、同一地点で採取した底質のスクリーニング分析を実施しており生物蓄積性の解析・評価、そして既知の有機ハロゲン化合物との比較を進めている。このように全体として研究は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
野生生物は、環境残留性・生物蓄積性を示す塩素化・臭素化・ミックスハロゲン化ダイオキシン類だけでなく、環境中で化学的に不安定なAhRアゴニストにも曝露されている可能性がある。そこで現在、昜分解性AhRアゴニストを含むGPC処理溶液を用いたCALUXアッセイを鳥類の肝臓を対象に実施しており、その解析を進める。さらに、GPCで精製した肝臓抽出液をHPLC (カラム: Luna 2.5μm C18 (2)-HST) で詳細に分画し、CALUXで活性値を測定した後、各フラクションに溶出する活性物寄与物質を同一HPLC条件で測定した標準品の保持時間をもとに推定するとともに、GC×GC-HRTOFMSを用いて同定を試みる予定である。 また二枚貝に加え、同一地点で採取した底質のGC×GC-HRTOFMSスクリーニング分析を実施し、得られた2D TICからNISTライブラリーサーチや初年度に作成したオリジナルデータベースと比較・照合し、既知・未知物質の分子構造を確認・推定する。底質と二枚貝から検出・同定された全有機ハロゲン化合物のbiota-sediment accumulation factors (BSAFs)を見積もり、昨年度新たに同定した有機ミックスハロゲン化合物の生物蓄積性を評価する。可能であれば二枚貝のような低次生物だけでなく、海洋生態系の高次に位置する生物相においてもスクリーニング分析の実施を計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、コロナ禍の影響で研究活動が一時期制限されたため、結果として経費が抑えられた。最終年度は、研究を進展させるべく数多くの試料に対してスクリーニング分析およびアッセイ評価を実施する計画であることから、器具類や有機溶媒、そして試薬などの消耗品を多く購入することになる。併せて、測定機器の消耗品部品における定期的な交換も必須となり、とくにスクリーニング・定量分析に使用するGC×GC-HRTOFMSとGC-HRMSは、高精度・超微量測定が可能な反面、性能を維持し安定稼働させるには消耗品部品の交換だけでなく分析部の定期的な調整費も必要であるため、本研究費を活用する計画である。さらに、研究成果を国内外の学会やシンポジウムで発表するための旅費、そして国際学術誌に論文として投稿する際の印刷費等にも使用する予定である。
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