不死化された安定正常線維芽細胞であるBJ1-hTERT (BJ-5ta) 細胞に0,1,3,6 グレイのγ線を照射し,選択培地なしに希釈培養することで1細胞由来クローン化を実施した。各線量でそれぞれ,10,10,12,20 個のクローンを単離し,合計52クローンの高分子DNAを抽出した。 これらクローン細胞DNAのうち,0グレイ照射(非照射群)から3クローン,3グレイ照射から2クローン,6グレイ照射から2クローンについて,ショートリードNGSシークエンサー によって得られたゲノム塩基配列データを解析した。互いの細胞の変異比較において,2クローン以上で共有されている変異は,培養過程で導入された変異であって放射線に無関係の変異であると考え観察対象から除外し,各クローン特異的な変異だけを集めて,その数および変異アレルの頻度を比較した。また,同7クローンは,高精度ロングリードNGSシークエンサーをつかってゲノム配列情報を得た。 結果は,1)培養過程で多くの変異が蓄積されている,2)その数は,放射線照射による変異よりも多いことが示唆された。培養自体による変異(バックグラウンドノイズ)に比して,観察したい現象が想定された率よりも余りにも小さすぎたために,本研究規模の細胞数の観察程度では,放射線によって培養細胞内に導入される変異導入率の算定は困難である。放射線照射量を増やすと,大きな欠失が増えている可能性が示唆されているが,まだ解析できていないクローンがあること,解析対象数が少ないことから,最終的に結論づけることができない。 研究は,高精度ロングリードNGSシークエンサーの情報解析を含め継続中ではあるが,単純に培養細胞に放射線を照射して導入される変異を観察するだけでは,放射線影響によって細胞に残される変異数を算出することは,小規模培養細胞研究では非常に困難である。
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