昨年度までの高精度ポータブルメタン分析計およびチャンバー法を用いた水田圃場(農研機構 農環研所有圃場)での形態別(バブル態、水稲経由、田面水からの拡散)メタンフラックス測定データを整理し、水稲作付の有無や稲わら施用の有無が形態別メタンフラックスに与える影響について再評価した。統計解析から、水稲の存在や稲わら施用による積算メタン放出量の増加は、水稲の生育ステージ毎で加算的であることがわかった。また、既往の研究で放出量が少ないことが報告されている田面水からの拡散によるメタン放出も、本研究による測定結果では無視できないことを明らかにした。さらに、水田からの全メタンフラックスの季節変動は、バブル態メタンフラックスの季節変動によって概ね説明できることが示唆された。水田内の土壌水分センサーから得られた気相率データ(土壌体積当たりのバブル存在量)と形態別メタンフラックスの測定データの関係から、気相率を関数とするメタンフラックス予測式を提案した。稲わら施用によりバブル態メタンフラックスが増加する生育初期(稲わら施用区のみ)や、水稲体の通気組織が劣化する登熟期を除けば、気相率を関数とする予測式は、バブル態、水稲体経由、全メタンフラックスを概ね再現することができた。メタンフラックスに水田内のメタンガスプール量が大きく影響していることを示すとともに、これら予測式は、手間のかかる圃場における形態別メタンフラックスの時系列データの簡便な推定方法として今後期待ができる。
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