本研究では、莫大なエネルギーを必要とする化学的窒素固定を低減し、生物学的窒素固定を推進する研究の一環として、窒素固定細菌による「大気窒素」を積極的に利活用する次世代の発酵技術を開発し、廃棄物や難利用資源から有用物質(アンモニア、アミノ酸、バイオプラスチックなど)を生産することを目指した。得られた研究成果の概要は以下の通りである。 窒素固定細菌Azotobacter vinelandiiが、バイオディーゼル生産時に副生する「廃グリセロール」から有用ポリマー(アルギン酸とポリヒドロキシ酪酸(PHB))を合成した。「廃グリセロール」は油分を含み高pHを示すが、A. vinelandiiは、脱脂や中和の前処理をしていない「廃グリセロール」を資化した。アルギン酸とPHBの合成は拮抗するため、アルギン酸合成欠損株を育種した結果、欠損株では野生株と比較して顕著にPHBの生産レベルが向上した。「廃グリセロール」からのPHB高生産にアルギン酸合成の遮断が有効であることを明らかにした。 種々の窒素固定細菌を用いて、「大気窒素」からの有用物質生産を試みた結果、窒素源として「大気窒素」のみの培養条件で、ニンヒドリンと反応するアミノ化合物を分泌生産する窒素固定細菌を見いだした。 土壌より、新たに窒素固定細菌をスクリーニングした。「大気窒素」を窒素源とする条件下で良好に生育する細菌を分離し、16S rRNA解析によりAzotobacter tropicalisと同定した。本細菌はブルーカーボンとして高度利用が求められているマンニトールを良好に資化することがわかり、A. vinelandiiと同様、アルギン酸とPHBを生産することが示唆された。 以上のことから、窒素固定細菌による「大気窒素」活用型物質生産系を提案することができた。本研究成果は脱炭素社会の構築などSDGsの達成に寄与することが期待される。
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