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2019 年度 実施状況報告書

人工衛星データと深層学習を用いた福島原発事故に係る環境評価

研究課題

研究課題/領域番号 19K22929
研究機関京都大学

研究代表者

大庭 ゆりか  京都大学, 森里海連環学教育研究ユニット, 特定助教 (30816921)

研究分担者 伊勢 武史  京都大学, フィールド科学教育研究センター, 准教授 (00518318)
研究期間 (年度) 2019-06-28 – 2022-03-31
キーワード放射線災害 / 森林生態系 / リモートセンシング / 環境保全 / 深層学習
研究実績の概要

原発事故が自然にもたらしたものは放射性物質だけではない。本研究では、これまで見過ごされてきた「除染」という人間活動が森林生態系に及ぼす影響を、情報学の新技術を適用して評価する。高精細な人工衛星画像データの解析が可能なモデルを開発し、その技術を搭載した自動識別モデルを広域適用に耐えうるものへと発展させる。この技術を用いれば、汚染の影響評価時に、除染という二次的な影響も考慮することができ、より精度の高い環境評価が可能となる。本研究は学術の発展に寄与するだけではなく、現地の森林管理と環境モニタリングを革新する可能性を秘めている。地元の森林管理者、地方自治体、環境省などが定量的・客観的にモニタリングを行うことができ、長期にわたると予測される森林再生計画の現実的な運用への貢献を目指すものである。

初年度となる2019年度は、計画どおりの成果をあげることができた。9月には、福島県の南相馬市・浪江町・川内村を中心としたフィールド調査を実施して、対象地域の森林除染状況を把握し、それをground truthとして人工衛星観測データを解釈する基盤を確立することができた。実際の森林除染箇所を観察することで、作業についての理解を深めることができ、また森林除染の影響の経年変化を知ることができた。また、商用の人工衛星画像をふくめた種々のビッグデータの検討を行った。さらに、深層学習技術開発を行い、フレームワークDIGITSを用いた画像識別の実装およびtensorflowによる可視化技術GradCAMの実装を行った。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

【1. 除染実施区域の自動識別モデル開発】本研究では、深層学習を用いて、除染が実施された森林域(住居等と隣接する林縁から20mの範囲)を、衛星画像から自動識別するモデルを開発する。2019年度は、自動識別モデル実装に用いる深層学習フレームワークであるDIGITSおよびtensorflowの導入を行った。深層学習に用いるGPU計算機などは所属研究室の備品の共同利用の仕組みを整えた。

【2. 除染実施区域の人工衛星観測データの整備】本研究では、画像データとして「WorldViewシリーズ(DigitalGlobe社)」など空間解像度5m未満の精細な情報を取得・整備することで、除染の有無による森林生態系への影響を高精度で検出する。2019年度は、Ground truthデータ取得のためフィールド観測を実施することで、実際の現場での除染状況を把握することができた。さらに、商用人工衛星データなど種々のデータソースについて調査し、深層学習による自動識別に最適なデータについて検討した。

【3. データ解析技術の取得】本研究の結果を学術論文として公開し、森林除染の与える影響について考察するために欠かせない統計技術の習得を行った。スパース解析の技術により、多数の説明変数から特に影響の大きな変数を抽出することが可能となった。さらに、グレンジャー因果性による統計的因果推定を実施することが可能となり、これは原発事故の直接・間接の影響を定量評価することにつながる。

今後の研究の推進方策

除染実施区域における森林健全性の検証のため、人工衛星データから除染実施区域に生育する樹木の正規化植生指標(Normalized Difference Vegetation Index:NDVI)を算出する。NDVIは人工衛星から非破壊・非接触で植物の活性を観測するために広く用いられている指標である。原発事故とその後行われた除染は、森林に2回に及ぶインパクトを与えた。人工衛星観測は長期間のビッグデータであり、(1)原発事故前、(2)原発事故後・除染前、(3)除染後の3期間を通して安定したデータが存在する。本研究では、各期間のNDVIを比較することで、原発事故と除染という二つのインパクトの影響を定量的な評価を可能とする。なお、除染の時期はそれぞれの対象地域によってばらつきがある。本研究にとっては、このような「ばらつき」は、むしろメリットである。なぜならば、気象条件は年によって大きく異なることが多いため、森林の変化の原因は気象のせいか?それとも除染のせいか?という問題に答えるのは困難なのが通常だが、除染の時期のばらつきを利用すれば、この原因を分離することを目指す。

次年度使用額が生じた理由

当初計画では深層学習のためGPU計算機などを調達することを予定していたが、所属研究室の備品の共同利用の仕組みを整えることができたため、想定よりも予算を節約することができた。さらに、本研究が所属研究室の主要な研究テーマとして選定されたため、当初計画にふくまれていた調査のための旅費などの支給を受けることができた。年度末には新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、調達を予定していたハイパフォーマンスコンピューティング用機材の入手が困難となった。次年度以降、計画に沿った物品の調達を進め、また必要な現地調査やデータ解析補助を行う研究補助者の雇用などをふくめて使用計画を検討し、効果的な研究成果の達成を目指す。

  • 研究成果

    (5件)

すべて 2019 その他

すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (2件)

  • [国際共同研究] ハーバード大学/ボストン大学/NASA Jet Propulsion Laboratory(米国)

    • 国名
      米国
    • 外国機関名
      ハーバード大学/ボストン大学/NASA Jet Propulsion Laboratory
  • [雑誌論文] Forecasting Climatic Trends Using Neural Networks: An Experimental Study Using Global Historical Data2019

    • 著者名/発表者名
      Ise Takeshi、Oba Yurika
    • 雑誌名

      Frontiers in Robotics and AI

      巻: 6 ページ: -

    • DOI

      10.3389/frobt.2019.00032

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Low-Background Shielding Box for Autoradiography of Environmental Samples and the α-, β-, and γ-ray Sensitivities of the Imaging Plates2019

    • 著者名/発表者名
      Shizuma、Oba
    • 雑誌名

      Applied Sciences

      巻: 9 ページ: 5209~5209

    • DOI

      10.3390/app9235209

    • 査読あり
  • [学会発表] VARENN: Graphical representation of spatiotemporal data and application to climate studies2019

    • 著者名/発表者名
      Oba Yurika, Ise Takeshi
    • 学会等名
      American Geophysical Union Fall Meeting 2019
  • [学会発表] Causal relationships in mesoscale teleconnections between land and sea: a study with satellite data2019

    • 著者名/発表者名
      Ise Takeshi, Oba Yurika
    • 学会等名
      American Geophysical Union Fall Meeting 2019

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公開日: 2021-01-27  

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