研究課題/領域番号 |
19K22932
|
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
西嶋 渉 広島大学, 環境安全センター, 教授 (20243602)
|
研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
|
キーワード | 正浸透膜 / メタン発酵 / 下水 / 有機物濃縮 |
研究実績の概要 |
日々の生活から発生する下水や産業排水など大量の排水は膨大なエネルギーを使用して処理され、その過程で大量の廃棄物が発生している。本研究では処理対象である有機物質をエネルギーをかけて処理するのではなく、エネルギー(メタン)に変換する技術を開発することを目的とした。具体的には、大規模な下水処理場が沿岸部に立地している環境に着目し、塩濃度が高い海水(駆動溶液DS)と排水(供給溶液FS)の浸透圧差を駆動力として正浸透膜によって無動力、あるいはわずかな加圧によって排水中の水のみを海水側に移動させ、排水中の有機物をメタン発酵が可能なレベルまで濃縮し、エネルギー転換するプロセスを目指した。 現状利用可能なNF膜について評価したところ、NaCl阻止率が60%から93%の膜において、下水中溶存有機物の大部分を占める1 kDa以上の有機物を9割以上阻止・濃縮することが可能であることがわかった。実際には固形有機物も濃縮されることから、この範囲の膜を使用することで十分有機物濃縮が可能であることが分かった。 これらの有機物濃縮が可能な膜における無機イオンの透過性を検討した結果、特に陽イオンの除去性に優れており、二価イオンと比べ一価イオンの膜透過性が高い傾向が確認された。 塩濃縮によるメタン発酵阻害については、塩阻止率100%の条件下で有機物濃縮を行うとメタン発酵阻害が確認されたが、塩阻止率70%の条件下ではメタン発酵阻害が起こらないことが示され、上記で示された有機物濃縮が可能な膜の中で、塩阻止性が低い膜を使用することでメタン発酵阻害が起こらないように一定の塩を透過させ、有機物のほとんどを保持・濃縮できる膜を選択することで、下水中有機物のエネルギー転換が可能であることが示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、主として以下の3つの課題に取り組んだ。 ①下水中の塩類濃縮を抑制しつつ、有機物を濃縮のための適切な膜の選択とFO操作条 件の検討 ②塩素洗浄によるバイオファウリング制御 ③濃縮下水によるメタン生成と発酵阻害の評価 ①および③については、当初の予定通りに進行したが、②については現在研究が進行中であり、当初計画より遅れている。
|
今後の研究の推進方策 |
「②塩素洗浄によるバイオファウリング制御」に関して今後集中的に実施する予定である。下水を直接ろ過する正浸透膜処理では、通常の膜処理と比較して膜表面に微生物が付着してろ過水量が低下するバイオファウリングが起こりやすい。ここまでの研究で、ある程度塩を透過する膜が有機物濃縮を可能にしつつ、メタン発酵阻害を起こさないことがわかってきており、この塩をある程度透過する性質を活用したバイオファウリング制御を計画している。具体的には透過側(DS)から殺菌剤である次亜塩素酸ナトリウムを透過させることで膜とその表面の付着している微生物の付着面に直接次亜塩素酸ナトリウムを作用させることで、効果的に殺菌することを計画している。バイオフィルム内部はバイオフィルムの外表面からの薬剤処理では殺菌しにくいことが示されており、この付着面からの薬剤の浸透によって付着面の細菌を殺菌し、バイオフィルムの剥離を起こさせることができると考えられる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍に対応した大学の方針のため研究ができない期間が生じたことから当初の計画通り研究を進めることができなかった。 昨年度までに実施できなかった塩素洗浄によるバイオファウリング制御に関して今年度実施する。本取り組みは、予めバイオファウリングを発生させた膜を作成し、その膜に対して、通常の供給水(FS)側からの塩素洗浄ではなく、透過(DS)側から使用膜の塩透過性を利用して次亜塩素酸ナトリウムを透過させ、膜とバイオファウリングを引き起こす生物膜の接触面に次亜塩素酸ナトリウムを作用させ、効率的に生物膜を除去するプロセスを検討する。
|