高濃度の有機物を含む排水や有機性固形廃棄物からエネルギーを取り出すメタン発酵という技術があるが、下水や多くの産業排水は含有する有機物の濃度が低く、そのままではメタン発酵には利用できない。本研究では、塩濃度が高い海水と排水の浸透圧差を駆動力として無動力で運転可能な正浸透膜によって排水中の有機物をメタン発酵が可能なレベルまで濃縮する技術の開発を目指した。正浸透膜はまだ開発途上の膜であるため、逆浸透膜を用いて、どのような特性を膜に持たせることで排水中の有機物を濃縮し、無機塩を排除できるかに焦点を絞った検討を行った。本来FO膜は無動力で運転するものであるが、海水と下水の浸透圧差のみでは流量が小さく、下水のような大量の排水を処理するには適していない。そこで加圧を行ってみたところ、0.1MPaの加圧で流量が2倍となり、有機物の透過性に変化はなく、無機塩の透過性が上がることが見いだされ、FO膜であっても、一定の加圧を行うことで流量の向上と無機塩の除去性の改善が同時に達成されるという知見を得た。しかし、1価の無機イオンと比較すると2価イオンは透過しにくく、有機物とともに濃縮される傾向にあった。人工的に作成した濃縮下水において、一価イオンのみ70%の濃度とした濃縮下水、全無機イオンを70%とした濃縮下水、濃縮下水でメタン発酵実験を行ったところ、1価イオンのみ70%の濃度とすることでそのままの濃縮下水では観察された発酵阻害が起こらないことが確認できた。このことから有機物とともに2価イオンが濃縮されても、1価イオンを透過しやすいFO膜の特性によってメタン発酵阻害は回避できる可能性が示された。 膜の洗浄に関しては、海水側から次亜塩素酸ナトリウムを透過できる可能性が示され、ファウラントと膜の接着面に直接洗浄剤であるが次亜塩素酸ナトリウムを透過させ、効率的に洗浄できる可能性が示された。
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