研究課題
血管や骨などの生体組織は力学環境の変化に応じて「リモデリング」する.このリモデリングを支える細胞内要素として,アクチン細胞骨格が注目されてきた.研究代表者は,最近,アクチン細胞骨格には,一旦バラバラになっても自己の線維構造や配向,さらに発生する力も効率良く再現させる「構造と力の記憶」が備わる可能性に気付いた.このような個々の細胞骨格分子の記憶特性は,外乱に対する組織全体の恒常性を保つ基盤原理となっている可能性が高い.そこで本研究では,この考えを立証するために,アクチン細胞骨格に生化学的・物理的外乱を加え分解させた後,その分子構造や張力が再現する過程を詳しく調べた.そして,細胞の構造と力の記憶メカニズムを探るとともに,その生理的意義を明らかにすることを目的とした.最終年度は,細胞老化と,細胞構造の復帰能力との関わりに着目し研究を展開した.ブタ胸大動脈由来平滑筋細胞を対象として,継代数が比較的少ない細胞と,継代を重ねて老化を進ませた細胞を準備し,細胞骨格構造を一旦破壊した後の復帰過程を詳細に調べた.継代数が若い細胞は,比較的細長い形態をしているが,継代数が進むことで個々のアクチン細胞骨格の収縮能も顕著に低下していった.細胞骨格破壊後の形態再現能力についても,継代数が進むと低下していった.一方で,個々のストレスファイバを切断した場合の復帰能力については,継代数が進むほど復帰し易い傾向が見られ,ストレスファイバ同士の融合のし易さなどが影響しているといった新たな知見が得られた.
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