本研究では細胞の構造と力の記憶メカニズムを探るとともに,その生理的意義を明らかにすることを目的とし,特に細胞老化との関わりに着目しながら2年間の研究を進めてきた.血管平滑筋細胞を対象として,低継代数の細胞と,継代を重ねた細胞を準備し,アクチン細胞骨格の分布様態,細胞張力,細胞の運動特性を調査した.継代数が増えると細胞面積が増加するが,細胞張力が減少し,運動能にも低下が見られた.アクチン細胞骨格を物理的に切断して,収縮挙動と構造・力の再現力を評価したところ,継代数が進むにつれて復帰能は高まるが,再現性は乏しくなる傾向が得られた.細胞の張力や構造の記憶能力が細胞老化に深く関わる可能性が示された.
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