研究課題/領域番号 |
19K22950
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
中川 誠司 千葉大学, フロンティア医工学センター, 教授 (70357614)
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研究分担者 |
長谷 芳樹 神戸市立工業高等専門学校, その他部局等, 准教授 (60448769) [辞退]
大塚 翔 千葉大学, フロンティア医工学センター, 特任助教 (00776049)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | 生体情報・計測 / 骨導超音波 / 遠位呈示 / 心理物理計測 / 体内伝搬シミュレーション / オーディオ・インターフェース |
研究実績の概要 |
骨伝導で呈示された 20 kHz 以上の高周波音(骨導超音波)であれば,一部の最重度難聴者にも知覚される.また,この骨導超音波は上肢や体幹部などの,頭部から離れた部位(遠位)に呈示した場合でも知覚可能である.この”遠位呈示”を利用することで,着け心地が良く音漏れの無い新型デバイスの開発が可能になるが,遠位呈示された骨導超音波の知覚メカニズムには不明な点が多く残る.本提案課題では,ヒトを対象とした心理計測と生体振動計測,およびコンピュータ・シミュレーションによって,遠位呈示された骨導超音波の知覚特性と伝搬メカニズムの解明に取り組み,補聴器や新型オーディオ・デバイスへの応用の可能性を明らかにする.2019年度は以下のような研究に取り組んだ. (1) 聴覚健常者を対象にして,骨導超音波を身体各部(頸部,上腕,前腕,鎖骨,胸部,背部等)に呈示した場合の基礎知覚特性(時間分可能,周波数分解能等)を調べた.その結果,頭部(乳様突起)に呈示した場合に比べ,時間分可能の劣化は観察されなかった.振幅変調を施した骨導超音波に対する周波数分解能においても呈示部位による劣化は観察されなかったが,復調音をマスキングした場合の周波数分解能は,マスキングしない場合に比べて大きく劣化することがわかった. (2) 250 Hz - 30 kHzの骨導音を身体各部に呈示した際に,受容器近傍(外耳道)に生じる振動の振幅/周波数/復調特性を調べたところ,概ね心理知覚特性と矛盾しない結果が得られた.また,耳介軟骨の非線性によって,自己復調が生じている可能性が示唆された. (3) コンピュータ・シミュレーションによる体内伝搬特性解析システムを構築した.波動計算には時間領域有限差分法(FDTD法),身体モデルには既存の数値人体モデルを使用している.現在,解析結果を元にした詳細な体内音場分布の推定を試みている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画の通りに各サブテーマを遂行することができた.心理物理計測や生体振動計測の結果から遠位呈示骨導超音波知覚の基礎特性を調べ,少なくとも一定の条件下では,十分な音質を確保できることを見いだした.特に,可聴周波数帯域の骨伝導音に比べ,体内伝搬に伴う距離減衰が小さく,音漏れや振動覚が生じることもないというメリットを明らかにすることで,オーディオ・インターフェースへの応用の可能性と意義を改めて確認した.なお,一身上の都合(転職)により研究分担者1名が研究グループから外れたものの,当人が担当テーマであった計算機シミュレーションは研究代表者・中川が担当したために,計画の進捗に遅れは生じなかった.
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降も,新型インターフェース開発を目指した,遠位呈示骨導超音波知覚メカニズムの解明に係る諸検討を進める.骨導超音波に音声情報を重畳させる際には振幅変調を用いるが,振幅変調方式ごとの基礎知覚特性や音声知覚特性(明瞭度,了解度,音響特徴量ごとの伝達特性),および生体内伝搬特性を調べる. さらに,上記の各検証から得られた知見を利用して,重度難聴者のための新型補聴器(骨導超音波補聴器)の改善を図り,その性能を検証する.また,遠位呈示骨導超音波においては所謂音漏れ(気導放射)が生じないことを利用し,使用者だけに選択的に音声情報を呈示可能なオーディオ・デバイスの開発を試みる.
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度は計画遂行に必要な実験補助者の雇用,実験に必要な加速度センサ,マイクロホン,計算機等の購入を行う予定であったが,やや大型の学内予算が確保できたために,そちらで充当することになった.未使用分は2020年度以降に行う新型オーディオ・インターフェースの試作や関連研究経費に充てることで,より高度な研究成果の創出を量る予定である.
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