がん患者の腫瘍組織の中に存在している腫瘍浸潤T 細胞(Tumor InfiltratingLymphocyte: TIL)を、in vitro で活性化・増殖させた後、再び患者へ輸注するTIL療法は、非常に強力ながん免疫治療である。しかしながら、悪性黒色腫では効率良くTIL の培養に成功するが、固形がんにおいては腫瘍組織内のTIL の数が少なく、さらに腫瘍内における免疫抑制性の環境のためTIL の培養・増殖が非常に困難であることが分かっている。本研究では、ポリエチレングリコール(PEG)脂質を利用した細胞表面工学技術を免疫制御技術へ応用し、がん細胞表面を加工して、がん細胞-T 細胞間相互作用における免疫抑制シグナルを制御する。特に、がん細胞が持つMHC クラスI 分子に提示されているがん抗原を特異的に認識するTIL を選択的に増殖させるために、細胞表面工学技術を活用してがん細胞を抗原提示細胞へと改変することで、固形がんのTIL を増殖させることを目指す。そこで、我々はここで提案する増殖方法によりTIL を増殖させ、TIL 療法として展開し、最終的には、その腫瘍特異的T 細胞受容体(TCR)の遺伝子をクローニングして、得られた遺伝子をレトロウイルスベクターに組み込み、新たに患者の末梢血リンパ球に遺伝子導入することで、患者の腫瘍特異的T リンパ球を作製して治療に用いる(TCR-T 細胞治療)ことを目指している。昨年度では、PEG脂質を用いた細胞表面技術により、マウス悪性黒色腫細胞株B16(B16F10細胞)に対し て、CD80-Fcをその表面に固定化することに成功した。今年度では、昨年度に引き続き、CD80-Fcの細胞表面への固定化の最適化条件を探索することに取り組んだ。スペーサ長や密度を変化させて、表面への固定化量を検討し、最適条件を見つけた。本条件を用いて、CTLへの細胞間相互作用による増殖刺激を検討したところ、細胞傷害性 T 細胞 (CTL) の増殖のへ大きな影響は見られなかった。
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