研究課題/領域番号 |
19K22955
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
池袋 一典 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 卓越教授 (70251494)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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キーワード | 気相中の分子認識 / アプタマー |
研究実績の概要 |
本研究は気相中で分子認識できるDNAアプタマーを設計・開発することを目的とする。気相中のガス分子検出は、疾病の早期診断や覚醒剤検知やテロ対策に極めて有効である。現在、金属酸化物半導体センサー等が、気相中のガス分子検出に用いられているが、特定のガス分子のみの特異的検知は不可能である。異なるガス分子吸着層を複数用意し、それぞれの吸着量を測定し、測定対象とするガスをパターン解析により識別するシステムは開発されているが、特定のガス分子を特異的に認識する術がない。 生物は極めて高感度に匂い分子を特異的に検知することが可能であり、その検知は匂いレセプターによるガス分子の水相での特異的な検出に基づいている。基礎研究として、匂いレセプターを酵母表面に発現させ、匂い分子の結合によって起こる酵母の電気的応答等を検出する研究等は行われているが、そもそも水に溶けにくい匂い分子を再び水溶液に溶かして検出を行っており、高感度検出には到っていない。 ガス分子を気相中で特異的に分子認識する素子を作製できれば、ガスの濃縮装置と組み合わせることにより高感度検出が可能なはずであり、ガス分子特異的検出システムの開発を加速できる。DNAは、例えば二本鎖は気相中でも二本鎖を維持していると考えられ、その他の立体構造も維持する可能性がある。抗体と同様に優れた分子認識能を持つDNAアプタマー (通常一本鎖) は、気相中でも3次元構造を維持し、標的分子を認識する可能性がある。そこで、本研究は気相中で分子認識できるDNAアプタマーを設計・開発することを目的として研究を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ガス雰囲気下での分子認識シグナルの検出にある程度成功しており、当初目標としていた成果は得られている。 本研究では水晶振動子上にグアニン四重鎖を有するDNAを固定化し、DNAに標的とするガス分子が結合したときに生じる振動周波数の低下を検出することにより、ガス分子を検出しようと試みている。既に得られているトロンビンアプタマーなどのグアニン四重鎖構造を持つアプタマーを水晶振動子上に固定化し、匂い分子として知られるインドール等の、芳香族環を持つ分子をパーミュエーターを用い、ガス化して添加したところ、特異的な吸着を意味すると考えられる周波数変化が得られた。これまでに、グアニン四重鎖(G4)は、特定の環状化合物や糖を特異的に認識することが知られている。G4構造は水素結合やπ-π電子のスタッキング等の相互作用により形成され、これらの相互作用は気相中でも形成可能なので、気相中でも構造は維持されると期待できる。更にG4構造はポルフィリンや蛍光色素等、芳香族環を有する低分子化合物と結合することが知られており、その様な構造を持つ匂い分子の認識に有効だと期待して実験を行ったが、期待通りの結果が得られたと考えられる。 実際に芳香族環を持ち、メチル基の有無だけが異なるインドールとスカトールに対してG4構造を有するアプタマーが異なる周波数変化を示したことから、ガス分子の気相での分子認識が可能であることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
気相中で、ガス分子と分子認識素子が結合している場合に、どのような相互作用が働いているかはこれまでまともに議論されたことがないようで、いくら文献を探しても見つけることができなかった。気相中で分子を認識した、という報告はわずかに数例見つけることができたが、それも分子認識というよりガス状分子の吸着量評価の域に留まっている。前述したように、生物は優れた匂い検出能力を有するが、それも水相での匂いレセプター蛋白質による分子認識に基づいており、気相中での分子認識は自然界では例がないと考えられる。 しかし、呼気中のガス分子解析は、非侵襲での疾病の一次スクリーニングを可能にするので、これからの予防医療・先制医療には必要不可欠な基盤技術である。気相中での特異的な分子認識が可能になれば、疾病の早期診断や環境安全計測における潜在的ニーズは計り知れない。アプタマーは試験管内進化により獲得できることが魅力であるが、気相では、ガス分子に結合したアプタマーを回収する手段がない。つまり僅かでもガス分子に結合を示すアプタマーを取得して、その結合能や結合特異性をISMで改良することだけが、現状では、気相中で標的分子を認識できるDNAアプタマーを獲得する、唯一の手法だと考えられる。従って本研究は自然界にモデルを求められないほど、挑戦的な試みであり、気相中の分子認識については、既往の知見がほとんどないので、得られる知見は全く新規のものであり、学術的に極めて意義が高い。 構造が類似するインドールとスカトールにおいて、インドールだけに特異的な周波数変化を示すアプタマーが得られているので、今後ISMでその特異性の向上を試みる。
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