研究課題
本研究の目的は、超音波を利用する新手法――音響誘起電磁(ASEM)法――を用いて、非侵襲に臓器の線維化を定量可視化する基盤技術を提供することである。安全で繰り返し検査を行うことができる線維化の診断技術の確立は、循環器系、泌尿器系、消化器系、呼吸器系等の治療判断に大きく貢献することが期待される。2019年度は、当初計画通り、まず、心筋梗塞モデルにおいて得られたデータをさらに詳細に画像解析した。その結果、健全な心臓においても、大動脈、大動脈弁等のコラーゲン線維組織からの信号が観測されている。このことは、大動脈からの信号を参照信号として信号強度補正ができることを意味する。現在、論文を執筆中である。次に、腎不全モデルにおける線維化検出を試みた。腎臓においても、線維化の傾向がASEM画像から確認することができた(応用物理学会発表)。ただし、健康な腎臓においても一定程度の信号が観測されたため、定量的な評価方法が必要であることがわかった。そこで、閾値電圧を超えた信号発生面積を指標として評価したところ、健康腎と腎不全モデルとの違いが面積比として明瞭に定量化できることがわかった。また、サンプルの表面形状にASEM信号が敏感であることがわかった。実験状況の物理的モデル化と分析を行った結果、現在の金属平面アンテナでは、平面アンテナの法線ベクトルに対して垂直な成分は検出されないため、サンプル表面と平面アンテナとの平行度が重要であることがわかった。
2: おおむね順調に進展している
臓器線維化のモデル作成には数か月の時間を要し、また、モデル完成の時期が必ずしも研究活動に専念できる期間でないことがある(年末年始など)。モデル完成時にすぐさま測定に取り掛かる必要があるものの、装置系は他の実験とも共有しているため、マシンタイムと実験者の調整が困難な時期もあった。
健康な腎臓における信号起源が不明であり、生物学的な分析を含め明らかにする。腎臓サンプルについては、信号強度に形状依存が見られたため、補正方法を検討する必要がある。あるいは、超音波ビームの焦点サイズや音波波面を制御し、形状依存を軽減することを試みる。また、専用の前置増幅器を開発し、信号/ノイズ比を向上させる。一方、モデル提供先との綿密な打合せを行い、病理評価を含め、より効率的な研究実施を行う予定である。
すべて 2020 2019 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件) 備考 (3件) 産業財産権 (1件)
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