研究課題/領域番号 |
19K22957
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
佐々木 進 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (80323955)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | 量子パルス / MRI / 振動現象 / 液体 / Na核スピン / プロトン核スピン |
研究実績の概要 |
【背景】医療に欠かせない装置となったMRI(磁気共鳴画像法)は,2つの要素技術からなる。一方は,核磁気共鳴法(NMR)と呼ばれ,物理の原理に基づく根幹技術である。つまり, MRI = NMR(根幹技術)+ 画像化技術(上層技術) である。現在,MRIの開発は,もっぱら上層技術である画像化技術に限られ,根幹技術であるNMRは40年近く前の技術のままである。これに対し,応募者は,自ら構築したNMR装置に改良を重ね,これまで様々な量子現象を解明してきた。 【目的】2017年度,生体擬似物質に「量子パルス」を照射すると,核スピンからの応答信号が,時間的に激しく振動する現象を世界で初めて見出した。本課題では,量子力学的手法と生命科学的手法を融合させ,この現象が発現する機構を解明し,量子生命科学の新基軸を構築すること を目的とする。 【研究実績】量子パルスによる振動現象について,①100%再現するための実験上の条件を明らかにした。とりわけ,反転パルスを素早く照射するのにともない,スイッチング装置が肝要であることが明らかとなった。②当初は,溶液中のNa核スピンでのみ観察されると想定していたが,プロトン核においても100%の再現性で振動現象が見られることが明らかとなった。③ただし,振動の振幅はNa核スピンがプロトンよりも顕著であることが判明した。④Na核スピンの場合には,振動現象が支配的である一方で,プロトン核スピンでは,パルス照射の初期に振動現象が支配的で,長時間極限では減衰現象が支配的となることが判明した。④食塩水中のNa核スピンに対して,食塩濃度と振動の振幅について,想定通りの訂正的な結果を得た。⑤振動現象に対し,核スピン周辺の局所的な「粘性」を反映しているモデルに基いてシミュレーションを実施した結果,定性的に再現することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
まず,本現象は,世界で初めて見出した現象であるとともに,極めて奇異にも見えるため,常に再現性を問われる。これに対し,自作・改良型のNMR装置の強みを活かして,徹底的に再現性の是非を検討した。その結果,根本要因2点を明らかにしたため,不可思議であるものの確実に信頼にたる現象であることを示せた。これは,本研究課題の根幹となる最重要事項を確立したことを意味する。これをもって,現在,世界的な学術雑誌への投稿を準備中である。 さらに,当初の目的には入っていなかった,プロトン核スピンについても振動現象を見出した。 これらの知見は,本現象の普遍性を明らかにしたことを意味しており,学術的な意義とともに,MRIへの応用の可能性が一気に拡大したことを意味している。 以上から,当初の計画で挙げていた課題は,既に1点を除きすべて解決しており,当初の計画以上に進展していることを示している。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画以上に進展しているが,①当初計画で上げており未解決の課題,すなわち,生命科学で使われる同一粒径を選択できるメッシュ用いて,粒径と振動現象との関係を系統的に調べる。②振動現象の温度依存性を調べる。高温なら振動が顕著に,低温なら振動は収まってゆくと推定されるが,この仮説を検証する。③磁場強度依存性を,系統的に明らかにする。④シミュレーションにおいて,より現実的なパラメータを導入して,局所的な「粘性」による現象である,との仮説を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度は,感染症拡大に伴い,当初予定していた海外からの研究員を受け入れることが事実上,不可能となった。このため,その研究員の受け入れを断念した。それによって生じた予算を有効活用するために,一昨年度から別の予算で雇用していた研究員を,2021年度から雇用する。これにより,本研究計画を,当初の想定以上に加速・進展させうる。
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