研究実績の概要 |
遺伝子発現が細胞核内のDNAの物理的な分布の違いに影響されることが認識され始めている.例えば血管平滑筋細胞は組織内ではDNAが核膜付近に局在しているのに対し,数週間培養し増殖が盛んになる(脱分化)と,DNAが核内に満遍なく拡がってくる.脱分化細胞ではDNAの2重ラセンが緩みやすく,よってmRNAの合成が生じやすく,結果としてタンパク合成,更には増殖が活発になると推定される.ところで我々は,核内DNA分布が核の変形で容易に変化することを見出した.そこで本研究では,細胞核を定量的に変形させた後のDNA分布の変化を顕微鏡下で詳細に調べる装置を開発し,核変形によるDNA分散と細胞機能の変化との関係を調べることを目的として2年に亙る研究を進めている. 研究後半の本年度は昨年度試作した顕微鏡下観察型刺激負荷装置を用いて細胞核の圧縮試験を行った.圧縮装置は,深さ35μm,幅7.5, 10, 15μmの3通りの細溝を有するシリコーンゴム製の弾性基板を細胞繰返引張負荷用のシリコーンチャンバの底面に貼り付けたものである.本装置でマウス頭頂骨由来骨芽細胞様細胞MC3T3-E1を圧縮した.核を1回しか圧縮しない場合は,圧縮量が17%であっても核内のDNA凝集塊の個数にも体積分布にも顕著な変化は見られなかった.一方,5回圧縮した場合は,圧縮量が15%,30%の時,いずれも凝集塊の体積は小さくなり,凝集塊の個数は増加する場合と減少する場合があった.これより,核内DNA凝集塊の総体積は十分大きな圧縮刺激を受けると減少すること,圧縮刺激の強度には変形の大きさよりも変形の回数の方が利いている可能性があること,凝集塊の個数は,分裂して増加する場合,合体して減少する場合,小さくなり計測不能となるため減少する場合などが考えられ,変化は単純ではないことなどが明らかとなった.
|