研究課題/領域番号 |
19K22965
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
丸山 美帆子 大阪大学, 工学研究科, 特別研究員(RPD) (20623903)
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研究分担者 |
古川 善博 東北大学, 理学研究科, 准教授 (00544107)
門馬 綱一 独立行政法人国立科学博物館, 地学研究部, 研究主幹 (30552781)
田中 勇太朗 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 臨床研究医 (70813434)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | 尿路結石 / シュウ酸カルシウム一水和物(COM) / シュウ酸カルシウム二水和物(COD) / 安定相 / 準安定相 / 多形相転移 / 蛍光免疫染色 |
研究実績の概要 |
2019年度は、結石サンプルのうち、詳細観察したい部分を高精度で薄片化し、かつ試料が含有する結晶相や組織をできる限り損なわない薄片作製手順を確立した。また、得られた薄片を用いてマイクロメートルオーダーで結晶の相を分析できる分析手法、および含有されるタンパク質分子のマッピング方法を確立した。 薄片化する前の結石に対して、マイクロCT観察により含有されるシュウ酸カルシウム一水和物(COM、安定相)、シュウ酸カルシウム二水和物(COD、準安定相)およびリン酸カルシウムなどのおおよその偏在状況が3次元的に把握できるようになった。この情報に基づき、より詳細を見るべき箇所を狙って結石を薄片化することができるようになった。薄片の製作については、製作過程に用いる水が含有結晶相に及ぼす影響を評価した。特に加工の過程で失われる可能性が高いCODの存在状態を詳細に観察した結果、薄片製作過程における水の使用はCODからCOMへの相転移を加速しないと示せた。薄片を偏光顕微鏡観察することで、マイクロCTでは得られない詳細な情報、例えば各結晶相がどのような位置関係で存在しているのか、結晶が成長する際の組織がどのような状態であるのかなどが読み取れる。より詳しく結晶相を同定したい場合には、顕微FTIR(反射法)によって局所的な結晶相の同定が可能となった(20μm角)。これらの結石に対して、各種タンパク質の蛍光免疫染色を行った。結石に含有されるタンパク質は100種類を超えるが、まずはこのうちどの患者の結石にも含有され、かつ結石形成に大きな影響を与えるという報告があるタンパク質(オステオポンチン、カリギュラニュリンA、プロトロンビン)に着手した。詳細な条件検討の末、目的タンパク質の蛍光免疫染色によるμmオーダーの分布をマッピングすることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
結石の内部の状態をおおまかに把握した上で、詳細観察したい箇所を切り出して薄片化できるようになったこと、偏光顕微鏡および顕微赤外分光分析法(FTIR)により、シュウ酸カルシウムに関しては安定相であるシュウ酸カルシウム一水和物(COM)、準安定相であるシュウ酸カルシウム二水和物(COD)という2種類の多形を区別し、マイクロメートルオーダーで位置関係を把握できるようになったことは予定どおりの進行であった。また、有機分子のマッピングに関しても、2019年度に予定していたオステオポンチンだけでなく、プロトロンビン、カリギュラニュリンAという3種類のタンパク質について、同じ薄片サンプルを用いて同時染色ができるようになったことは予定以上の進捗である。 一方で、含有結晶一つひとつの粒径が数マイクロメートルオーダーより小さい場合には、COMかCODの判別が困難になる場合がある。測定領域20μm角の範囲に微細なCOMとCODが混在する場合、その混在比は780cm^-1のピークに着目し文献Patent No. JP3524968Bの方法に基づいて算出する。しかし、780cm^-1のピークは含有される有機分子や他の結晶相の影響も受けやすいことから、結石によっては算出結果の信頼性が低くなるという問題点が明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに見てこなかった周波数200 ~ 500cm^-1の範囲における吸収スペクトルを取得し、より明確にCOMとCODを区別できる吸収があるかどうかを明らかにする。特に300cm^-1以下の領域はテラヘルツ分光の対象領域であり、分子全体が振動する骨格変角振動やよじれ振動などに由来する吸収、分子間の水素結合やファンデルワールス力に由来する吸収由来のピークを確認できる可能性がある。この領域で、COMとCODを明確に区別できるようになれば、より信頼性の高い分析ができ、結石形成機構を考察する上で重要なデータを得られるようになると考えている。以上のように将来取り扱う予定の、より複雑な結石(結晶粒度が小さい、含有結晶相の種類が多いなど)を信頼性高く分析できる手法を模索しながら、これまでに構築した結石の分析手法を用いてより多くの結石の結晶相マッピングならびに有機分子マッピングを行いデータを蓄積していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験に遅れが出たため、次年度に実験を実施して使う。
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