研究実績の概要 |
本研究では,コンピュテーショナル臨床試験の一例として,形成外科・皮膚科治療において今後適用拡大が期待される新規超短パルスレーザーを評価する.一連 の治療プロセスを計算する光治療シミュレータを実装し,本手法の妥当性・有効性を明らかにすることを目的としている.本年度は,昨年度に測定した表皮,真皮,皮下脂肪の光学特性値を用いて構築した多層皮膚モデルを用いて,血管病変治療,色素病変治療,光温熱治療に利用される波長595, 755, 980 nmのレーザー治療における皮膚組織への比較評価を行った. 表皮,真皮,皮下脂肪からなる3層モデルと層構造を考慮しない1層モデルを仮定した.組織入射位置から光の強度が37%に減衰するまでの距離を光侵達深さとして求めた.3層モデルでの波長595, 755, 980 nmでの光侵達深さは,0.68±0.04, 1.35±0.05, 1.69±0.06 mmであった.一方,1層モデルでの波長595, 755, 980 nmでの光侵達深さは,0.76±0.02, 1.28±0.04, 1.55±0.02 mmであった.層モデルの違いによる組織内光分布が異なることが確認できた.可視波長域では表皮のメラニンによる光吸収が大きくいため,表皮層を考慮した3層モデルの光侵達深さは1層モデルより小さくなった.一方,近赤外波長域では,表皮・真皮組織による光減衰が小さいため,3層モデルの光侵達深さは1層モデルより大きくなった.本結果から,組織層の光学特性値と形状を考慮した皮膚組織モデルは,コンピュテーショナル臨床試験に有用であることが示された.コンピュテーショナル臨床試験の実現に向けた今後の課題として,光組織相互作用の時間スケールより長い時間スケールの生物学的応答のモデル化が挙げられる.
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