本研究では、先天的な遺伝子多型に起因する代謝異常症を、肝臓の代謝機能を付与した赤血球の輸血によって治療するというコンセプトの実現可能性の検証を目的とした。 申請書の段階では赤芽球の細胞株にレンチウイルスで遺伝子導入を行い、その後赤血球へと成熟させる方法で、赤血球にALDH2を発現させる計画であった。しかし、赤芽球から赤血球への分化効率を改善することができず、最終年度に入ってから方針を変更した。すなわち、レンチウイルスを用いて別の細胞でALDH2タンパク質を強制発現させ、これを成熟した赤血球に封入するというアプローチとした。 今年度は、ALDH2タンパク質の生産や、赤血球への封入方法の検討について研究を実施した。ALDH2遺伝子は、当初ミトコンドリア移行シグナルを含めた全長を発現させていたが、細胞内でのタンパク質発現量が律速になっていると想定されたため、シグナルペプチドを除去したものも用意した。赤血球への封入は低張液処理によって赤血球ゴーストを作製し、これを等張液処理することで実現した。低張液や等張液で処理する際の条件を検討することで、封入効率を改善することができた。 当初計画していた動物への移植実験までには至らなかった。これは、当初使用を計画していた赤芽球の分化誘導がうまくいかず、時間がかかってしまったためだが、結果的に赤血球への代謝酵素封入方法として、より直接的で制御しやすい赤血球ゴーストを経由する方法の有効性を確認することができた。本研究のアプローチは酵素補充療法や遺伝子治療とは異なる特徴を持っており、研究内容を対外発表した際には予想以上の反響を得た。以上のことから、挑戦的研究(萌芽)として本研究は大きな価値のある取り組みだったといえる。
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