研究課題/領域番号 |
19K22975
|
研究機関 | 京都府立医科大学 |
研究代表者 |
吉田 隆司 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (10546641)
|
研究分担者 |
足立 善昭 金沢工業大学, 先端電子技術応用研究所, 教授 (80308585)
山口 武志 金沢工業大学, 先端電子技術応用研究所, 研究員 (20593437)
|
研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
|
キーワード | 生体磁気 / 計算機シミュレーション / 深層学習 / SQUID / iPS細胞 / 再生医療 |
研究実績の概要 |
iPS細胞由来心筋細胞は再生医療や薬効試験における細胞材料として注目されており、その実用化において高速かつ自動化可能な品質評価手法が必要とされている。我々は磁場計測が非侵襲・非接触・非破壊的に行えることに着目し、細胞の電気活動に伴って生じる非常に微弱な自発磁場を超高感度磁束計であるSQUIDセンサで計測することによって、細胞の状態を定量的に評価する手法を検討している。 2020年度は培養細胞から生じる微小な自発磁場を、ノイズを含む計測データから精度良く検出するために有効な解析手法を主に検討した。前年度、遺伝アルゴリズムを用いたパラメーターの最適化によって、マウスiPS細胞由来心筋細胞の計算モデルを作成したが、分化心筋細胞が成体の心筋細胞と比較して未成熟な状態であることに着目し、活動電位の実験値をより良く再現するモデルへ改良することに成功した。また同様の手順でiPS細胞由来ペースメーカー様細胞の計算モデルも作成した。 次にこれらの1細胞レベルの興奮膜モデルを用いて、細胞集団における電気活動伝播のシミュレーションを行い、周囲に生じる磁場分布を推定した。また今回のシミュレーションの妥当性を検証するため、実験から得られた細胞外電位の信号とシミュレーションの推定値が矛盾していないことを確認した。 最後にシミュレーションによって得られた磁場波形を教師データとした深層学習を行い、信号分類に用いるニューラルネットワークのトレーニングを行った。さらに学習済みのネットワークを用いて、SQUIDセンサで計測した実際のデータから微小な生体信号の検出を試みた。 その結果、細胞外電位や光学顕微鏡で観察した拍動と周期性が一致する磁場シグナルの検出に成功し、一連の手法の有効性を示すことが出来た。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
SQUIDセンサ稼働のために必要な液体ヘリウムの供給状況であるが、タイトであった2019年度と比較すると2020年度はかなり改善された。コロナの影響で、細胞サンプル準備のための実験が滞った時期もあったが、2020年度後半からはおおむね問題なく実験を遂行することが出来た。細胞外電位と磁場の同時測定、および電位信号のピークを用いた加算平均による生体磁場の検出については前年から引き続き行っており、測定系の見直しによるノイズの低減など進捗があった。 計算機シミュレーションについては、2019年度に作成した心室タイプの分化心筋モデルに加えてペースメーカー様細胞モデルを作成し、活動電位を再現することに成功した。また当初の予定通り2種類の興奮膜モデルを用いて細胞集団の電気活動伝播シミュレーションを行い、細胞の磁場分布を推定した。さらに今年度はシミュレーション波形を利用した生体磁場検出法として深層学習を用いることを試み、SQUIDセンサで実測した磁場データに対して有効性を示すことが出来た。 従って「実験と数値シミュレーションが相互に補完しあうような細胞評価手法の確立」という最初に設定した課題は達成に向かっておおむね順調に進展していると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
3年目も引き続き細胞外電位測定が磁場測定に及ぼすノイズの影響を低減するため、測定システムの改良を行っていく。また深層学習を用いた信号検出に関しても精度向上のため、教師データの改良や学習時に使用するパラメータの最適化を行う。 このように実験や解析の精度向上を果たした上で、この課題の最終目的である細胞の分化度・成熟度と、磁場信号の波形・強度変化の間に見られる相関関係を検証していく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2019年度および2020年度前半の液体ヘリウム供給状況がタイトであったため、その期間予定していたより少ない回数しか実験を行うことが出来なかった。 補助事業期間を1年延長したので、その期間の実験に残額を用いる計画である。
|