研究実績の概要 |
本研究課題はタイムオブフライト型陽電子放出断層撮影法(Positron emission tomography, PET)を実現するための、PET検出器の高時間分解能化を目的としている。本課題では高時間分解能化の実現のために、高速な発光現象であるチェレンコフ光を利用していることが特徴である。 本年度は昨年度に引き続き臭化タリウム半導体を用いたPET検出器の時間分解能の最適化を進めた。特にハードウェアの改良のみでなく時間分解能を計算するソフトウェアの最適化も進めた。結晶は3 mm×3 mm×3 mmの臭化タリウムを用い、同時計数用の検出器には3 mm×3 mm×5 mmのLYSOを用いた。臭化タリウムからのチェレンコフ光とLYSOからのシンチレーション光は時間特性の良い光センサであるシリコンフォトマル(SiPM)を用いて検出した後、高周波アンプで増幅し、デジタイザを用いて波形を記録を行い、最終的にソフトウェアで波形解析を行うことで時間分解能を取得した。 その結果、511keVのガンマ線に対して最大423ピコ秒程度の時間分解能を得ることができた。これは半導体検出器としては非常に良い時間分解能が得られており、今後発光量や集光量を高めることより更に時間分解能が向上することが考えられ、最終的には300ピコ秒台以下の時間分解能の実現の可能性も期待できる。半導体検出器である臭化タリウムはエネルギー分解能も高く、本課題のような高い時間分解能が得られたことはより高いイメージング性能を持つPET装置の開発の可能性を示唆している。 また、チェレンコフ光を放出する結晶は臭化タリウム以外にも存在し、それらに本手法を適用することで更に性能の良いPET検出器の実現も期待できる。将来的には結晶や集光方法、読出し回路の改良を進めていき、PET検出器の更なる高度化を目指していく予定である。
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