研究課題/領域番号 |
19K22990
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
高島 一郎 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 情報・人間工学領域, 上級主任研究員 (90357351)
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研究分担者 |
梶原 利一 明治大学, 理工学部, 専任准教授 (60356772)
冨永 貴志 徳島文理大学, 神経科学研究所, 教授 (20344046)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | 脳機能 / 血液循環 / 血液脳関門 / 心拍 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、拍動する血液循環が脳機能をモジュレートするという仮説の検証を目指す。動物から取り出した全脳摘出標本と人工血液循環装置を利用し、摘出脳を拍動循環で維持しながら、拍動流周期の様々なタイミングで、摘出脳に電気刺激を与えて神経活動を惹起し、神経活動の生起や応答伝播に何らかの違いが生じるかどうかを解析する。脳活動のゆらぎと拍動流リズムの関係性にも着目し、拍動流は脳での物質代謝に有利な循環か、逆に、血液脳関門へのダメージを蓄積する循環か、について検証を行い、脳実質への拍動流効果に関して新しい知見を得ることを目的とする。予備実験において、動物から脳血管系を保存したまま全脳を摘出し、椎骨動脈よりカニュレーションを行い、実験チェンバー内で人工血液を定常流で脳灌流することにより、脳の生理活性を7時間程度維持する技術系は確立していた。そこで本年度は、従来用いてきた定常流を拍動流に置き換える実験系の構築を行った。循環ポンプをパソコンで外部制御することにより、内頚動脈血管の圧力波形を模擬した血液循環流の発生を試みた。超音波流量計を用いて脈動流を測定しながら、脳動脈の拍動を模擬する制御プログラミングを行った結果、循環ポンプの機械的な動作速度の限界から拍動数には上限が設定されるものの、実際の内頚動脈血流波形に近い尖頭状の拍動流波形を再現することに成功した。さらに、再現した人工拍動流を実際の脳標本に適用し、脳の生理活性が維持可能かどうかの評価実験を行った結果、約5時間にわたり全脳の生存を確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
循環ポンプの回転数を外部信号で制御し、内頚動脈血流波形に近い尖頭状の拍動流波形を再現することができた。機械系のインパルス応答を求め、計算機シミュレーションと実測流量の超音波計測の比較を繰り返すことで、ある程度自在に流量波形の制御が可能になっている。現在は、~5時間、脳の生理活性を維持できているが、拍動流波形の工夫でさらに良い状態で脳標本を維持できる可能性がある。拍動流では本脳標本を正常に維持できない可能性もありうる挑戦的なスタートであったが、現在までの進捗はおおむね順調であり、次年度以降、本課題を継続実施していくための、最初の実験的ハードルはクリアできた。
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今後の研究の推進方策 |
拍動流で全脳標本を維持する実験的準備は完了した。そこで次年度は、拍動流に同期した様々なタイミングで脳に電気刺激を与えて脳活動を惹起する。最初は、外側嗅索を刺激し梨状皮質で神経応答を記録する実験プロトコルを試みる。その後、虚血に弱い海馬など、いくつかの脳部位で神経応答を記録する。神経応答の生起や伝播は細胞外電位記録や膜電位イメージング法により解析する。ファイバー式の血流量計を導入して脳深部における毛細血流のスポット測定を行い、細動脈血管での拍動流の減衰など、より詳細な情報と脳応答との関連性を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
人工血液にナノバルブを溶解させ、脳標本の生理活性を高めると同時に、レーザー測定のための散乱体とする計画であった。しかしながらナノバルブ発生装置のデモ機を用いた評価実験の結果は望ましいものではなく、当該装置の導入を見送ったこと、および当該装置を利用する一連の実験を取りやめたことによる。次年度、代替手段として血液に混入するサブミクロン径ポリスチレンビーズの購入等に充てる計画である。
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