本研究課題は、拍動する血液循環が脳機能をモジュレートするという仮説の検証を目指す。動物から取り出した全脳摘出標本と人工血液循環装置を利用し、摘出脳を拍動循環で維持しながら、拍動流周期の様々なタイミングで、摘出脳に電気刺激を与えて神経活動を惹起し、神経活動の生起や応答伝播に何らかの違いが生じるかどうかを解析する。脳活動のゆらぎと拍動流リズムの関係性にも着目し、拍動流は脳での物質代謝に有利な循環か、逆に、血液脳関門へのダメージを蓄積する循環か、について検証を行い、脳実質への拍動流効果に関して新しい知見を得ることを目的とする。昨年度までの研究では全脳摘出標本において、感覚入力を模擬した電気刺激に対する大脳皮質の応答を解析し、拍動位相に依存して、多シナプス性応答の波形が変化する現象が見い出された。そこで最終年度においては、麻酔下のインビボ脳標本を用いて、動物の前肢感覚刺激に対する体性感覚野神経応答を電気生理学的手法により解析した。様々な要因により神経応答は揺らぐことが知られているが、今回、心拍位相に同期して感覚刺激を与えたところ、心室収縮期における神経応答の揺らぎは拡張期に比べ、ピークトゥピーク振幅およびピークトゥピーク時間間隔のバラツキがより大きいことが明らかになった。この結果は、昨年度までに全脳摘出標本を用いた実験において、収縮期に相当するタイミング位相で電気刺激入力を与えた際に、多シナプス性応答に減弱が見られた現象と関連があると考えられた。全脳摘出標本および麻酔下脳において見られた、拍動血流による神経調節作用を結び付け統合的に説明するには、さらなる実験検証が必要と考えられる。
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