研究課題/領域番号 |
19K22991
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
大矢根 綾子 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 研究グループ長 (50356672)
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研究分担者 |
宮治 裕史 北海道大学, 大学病院, 講師 (50372256)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | レーザー / エナメル質 / アパタイト / コーティング / フッ素 |
研究実績の概要 |
本研究は、研究代表者らの過飽和液中レーザープロセスによるアパタイト成膜技術を、ヒト抜去歯牙由来のエナメル質基材に適用し、耐酸性と抗菌性に優れたフッ素置換アパタイト(強化エナメル質)をエナメル質表面に迅速成膜するための技術を確立することを目的とする。初年度は、北海道大学病院自主臨床研究審査委員会ならびに産業技術総合研究所ヒト由来試料実験委員会による審査・承認を受けて、以下の研究を実施した。 まず、患者の同意を得て提供された抜去歯牙(通常治療において採取された歯牙)より、エナメル質を表面に露出させた基材(エナメル質基材)を切り出した。照射条件の基礎的検討のため、まずはフッ素無添加のリン酸カルシウム過飽和溶液を用い、得られた基材に対し過飽和液中レーザー照射を行った。具体的には、リン酸カルシウム過飽和溶液中に基材を浸漬し、同基材の表面にNd:YAGナノ秒パルスレーザー光(周波数:30Hz, 波長:355 nm)を非集光で30分照射した。未照射およびレーザー照射後の基材表面の形態、結晶構造、化学組成等を、薄膜X線回折分析、走査電子顕微鏡観察、エネルギー分散型X線分析、およびフーリエ変換赤外全反射分光分析等により調べた。その結果、適切なフルエンスのレーザー光を照射すれば、これまでに報告されている象牙質基材だけでなく、エナメル質基材の表面にも、本過飽和液中レーザー照射によってアパタイトを成膜できることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒト由来試料を用いる本研究計画の承認取得に時間を要したものの、承認後速やかに交付申請時の実施計画書に従い研究を進めた。本研究における第一の課題である、ヒトエナメル質表面へのアパタイト成膜を確認できたことから、おおむね順調な進捗状況と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に得られた研究成果に基づき、本過飽和液中レーザープロセスのさらなる高度化を進めていく。具体的には、まず、透過電子顕微鏡によりレーザー照射後のエナメル質表層の断面精密分析を行い、生成膜とエナメル質との接合状態について評価・検討する。また、過飽和溶液にフッ化物イオン(フッ化ナトリウム)を添加することにより、エナメル質表面へのフッ素置換アパタイトの成膜を試みる。より強力な抗菌性イオンの添加、ならびに他のレーザー光源の利用についても検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
ヒトエナメル質基材を用いた実験を行うために、研究代表者および分担者の所属機関(2機関)の倫理委員会に、実験計画(申請済み計画の変更)の承認申請を行った。しかし、うち1機関からの承認手続きに4か月以上を要したため、本格的な実験着手が遅れた(それまでは予備的な実験のみ実施)。 さらに2020年1月以降、新型コロナウィルスの影響で、共同研究打ち合わせや実験、学会参加(情報収集)のための出張の一部が取り止めとなり、予定していた計画を一部次年度に延期した。以上により、次年度への繰越金が生じた。 繰越金は、次年度に延期した計画を実施するために使用する。現在、テレワーク対応のために中断している実験の再開時期によっては、技術補助員の稼働時間を増やすことで、研究の加速を図る予定である。
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