本研究の目的は、皮膚電気刺激による筋肉収縮を活用した、ウェアラブル歩行支援デバイスの実現である。本デバイスは衣服の上に印刷形成された「皮膚電気刺激用の起毛電極」と、同じく衣服の上に実装された「電気刺激中の筋肉収縮をモニタリングする筋音センサ」から構成される。装着者自身の筋肉をアクチュエータとして利用するため、モータ等の外部アクチュエータが不要で、自身の筋力以上の発揮力が発生しないため、軽量で安全な行動支援方法である。高齢者のつまずき・転倒による骨折と、その後の日常生活QOLの著しい低下を防ぐとともに、電気刺激による筋力の維持・向上による基礎体力の底上げに貢献することが期待できる。 本研究では静電植毛技術を活用して、衣服の上に筋肉電気刺激用の電極を形成した。スポーツ用コンプレッションウェアの表面に電極の試作を行い、皮膚電気刺激により筋肉を収縮できることを確認した。この電極は、皮膚との接触抵抗が低いため導電性ゲルやクリームの塗布が不要であり、ウェア型のデバイスを着用するだけで効果的に電気刺激が行えるという特徴を持つ。本研究では、効率よく筋肉に電気刺激を与えるための、銀メッキ繊維の長さ、植毛密度、メッキ厚さに関しての条件探索を行なった。また体の部位ごとに、筋肉を収縮させるために最適な起毛電極の大きさと形状を決定した。 本研究では、筋肉を電気刺激により収縮させ、動作補助のアクチュエータとして活用する。その際、筋肉がどの程度収縮したか定量的に把握し、筋肉電気刺激信号発生回路にフィードバックする必要がある。そこで筋肉の機械的信号である「筋音」に着目し、皮膚電気刺激中の筋収縮状態の計測を初めて実現した。極薄シリコン薄膜の表面に、微小変位を電気抵抗変化として検出可能なピエゾ抵抗層を形成し、筋音によって生じる皮膚表面の微小な歪みが計測可能であることを確認した。
|